実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『些細なこと(破事兒)』(彭浩翔)[C2007-40]

2本めは、彭浩翔(パン・ホーチョン)監督の『些細なこと』。彭浩翔は去年はチケットが取れなかったが、今年は取れてよかった。去年ブログに「謀略の匂いがする」と書いた(id:xiaogang:20071006#p1参照)から、というわけでもないだろうが、いちばん大きいScreen 7が割り当てられている。平日だからか満席ではないのが残念。来年は狭い会場に戻ったりしませんように。

『些細なこと』は、7本の短編からなるオムニバス。長さも内容もさまざまだが、いずれも、「些細なこと」だけど人生の機微が感じられるストーリー(といっても下ネタ頻度が高い)、どれもそれなりにおもしろいが、いちばんよかったのは陳百強(ダニー・チャン)に泣かされた“大頭阿慧(おかっぱ頭のアワイ)”。二番めによかったのは、杜汶澤(チャップマン・トー)主演の“増値(チャージ)”。

“大頭阿慧”は、ふたりの女子高生がいて、阿慧(鍾欣桐/ジリアン・チョン)は阿蒞(訒麗欣/ステフィー・タン)を親友だと思っているが、阿蒞はそうは思っていない。何でも相談されるのがわずらわしいので適当にアドバイスをすると、それが全部オモテと出てその後阿慧は幸せな人生を送っている。阿蒞も後追い的に阿慧と似たような体験をするが、こちらは選択が全部裏目に出て対照的な人生を送っている、といった皮肉なストーリー。

それだけでも十分おもしろいのだが、この短編のキモは、彼女たち、特に阿蒞の青春とその終わりが、陳百強に重ねられていること。彼女は陳百強のファンで、そもそもふたりが親しくなったのは、陳百強と林珊珊のデュエット曲、“再見Puppy Love”を歌ってカラオケ大会に出ようと練習を始めたのがきっかけ。そのころは陳百強の絶頂期だったと思われ、台詞でも陳百強への言及がある。しかし次に陳百強が出てくるのは、彼女たちが卒業して何年も経ってからの、彼の死を伝えるニュース。それを聞いて泣きじゃくる阿蒞の長いショットがすばらしく、圧倒される。ニュースの音声は本物なのかどうかわからないが、彼の死、死に至るいきさつ、彼の経歴が簡潔に紹介され、よく知らない観客にもわかりやすいと思う。ヒット曲がいくつか挙げられ、やがて“喝采”が流れ始める。次第に激しさを増すような阿蒞の泣きかたは、悲しさと悔しさと、なくしたものを惜しむ気持ちがすべて混じったような感じ。陳百強の死によって何かが決定的に終わってしまったこと、何もかも、もはや取り戻すことはできないし、やり直すこともできないことに突然気づいたかのようで、とても切ない。

ちなみに、阿慧が阿蒞を誘ったのは彼女が陳百強のファンだかららしいが、「それなのに林珊珊のパートを歌わされた」というモノローグがなにげにある。阿蒞が阿慧のことをそれほど好きではなかったのは、実はこの恨みがずっと心に残っていたのではないかと思った。

彭浩翔の映画は基本的にはコメディだが、ゲラゲラ笑うようなものより、皮肉の効いた辛口でブラックな笑いのもののほうがよい。さらにこれにセンチメンタルなものを加味することによって、いっそう魅力を増すように思う。『イザベラ』[C2006-19]もそうだし、“大頭阿慧”もそう。“増値”にもそういうところがある。

ほかには、陳冠希(エディソン・チャン)主演の“公徳心”にはいちおうふれないわけにはいかない。もちろん例の事件の前に撮られたもので、陳冠希が彼の考える‘公徳心’について語るという皮肉な映画になったのは偶然である。それにもちろん、渡された台詞を言っているだけで彼自身の考えではない。それでも内容があれなので、衝撃的というか笑えるというかかなり楽しめる。その内容については、賛同はしないが一理はあると思う。別に隠さなくてもいいけれど、いきなり映画で観たほうがインパクトがあっていいので、ここには書かないでおくことにする。

上映後、彭浩翔監督と、撮影の林志堅をゲストにティーチ・インがあった。林志堅は『花蓮の夏』[C2006-17]も撮っている人だ。「杜汶澤がかっこいい役だったが、プロデューサー権限か?」という質問には、「えー?どこがかっこいい役?」という反応。彼を起用したのは、女を買いに行くというストーリーは、ほかの俳優だとその理由や背景の説明が必要になるが、彼の場合は誰もが納得するので説明不要だから、ということだった。杜汶澤の台詞で曾志偉(エリック・ツァン)と陳小春(ジョーダン・チャン)に言及しているのは、本人たちの承諾は得ていない、中国語字幕では名前のみだからもし怒られたら別人だと言い張る、とのこと。

次の次の休憩時間に食べる晩ごはんを買いに行くため、残念ながら途中で退場。ノースタワーの地下でお弁当を買う。