実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『外出禁止令(Hatta Ishaar Akhar)』(Rashid Mashrawi)[C1993-65]

3本めは、特集「ラシード・マシャラーウィの世界」の『外出禁止令』。この監督のことははずかしながら全然知らなかったが、運よく空き時間にちょうどはまったので、初の長編である『外出禁止令』を観ることにした。

舞台は1993年、おそらくオスロ合意前のパレスチナガザ地区。各家にそれぞれ異なる国から手紙が届くという象徴的なシーンで映画は始まり、まずは一見ふつうの生活が営まれているように見えるガザ地区の路地のたたずまいに惹かれる。しかしすぐに外出禁止令が出て、その後はずっと家の中が舞台となる。後半はほとんどが夜のシーンなので、何日間なのかよくわからなかったが、プログラムによれば三日間とのこと。

主要な登場人物はパレスチナ人の一家。腰を痛めて働けない父親、母親、長男夫婦とその娘、落ち着かずぶらぶらしている三男、家事手伝いをしている長女、小学生くらいの四男。次男はドイツに留学中(兄弟の順番は推定)。大きな建物の中を区切って複数家族が住んでいるのか、窓を開けると向こうは隣の家だったり、天井までない壁の向こうが隣の家だったりする。

突然の外出禁止令、銃撃戦や催涙弾、停電、突然の連行、家の破壊など、イスラエル占領下の過酷な日常がまずは再現される。事件は軍によるものだけではなく、外出禁止令下であることなどお構いなしにお産などもあり、産婆も呼びに行かなくてはならない。そんななかで、もちろん日常生活も営まれている。そのような日々が、緊迫感とサスペンスをはらみつつも淡々と描かれている。

印象に残るのは、登場人物、特に若者たちの焦燥感だ。連行されるのを恐れる日々だが、たとえ連行されなくても、どこかの組織にでも入らない限り、何をすることもできない。過酷な現状を黙って見ているしかない。「ここにいても留置場と同じだ」と三男は言う。「いつ終わるのか」「いつまで続くのか」という苛立ちは、ただ外出禁止令のことだけではない。イスラエル占領下にあるガザ地区の、あるいはパレスチナの状況とそのまま重なっている。

「ここから出て行くこと」も話題になる。ドイツに留学している次男は、ある意味で家族の希望の星である。それでも彼らは、出て行くことは卑怯だとも感じている。留まっていても何もできないけれど、出て行くこともできないという矛盾した状況。

そのような男性たちに対して、未婚の長女は「わたしにとってはいつも外出禁止令だ」とさらりと言う。しかしいったんおばさんになってしまうと、男性よりも安全だということで、使い走りの役が割り当てられる。隣の娘のために、危険を冒して産婆を呼びに行くのはお母さんだ。

この映画はパレスチナイスラエルとヨーロッパ数国の合作だが、イスラエルがどのように関わっているのかが知りたい。みんな気になることだと思うけれど、プログラムや公式サイトにはそんなことは全然書いてないですね。

おもしろかったので、ぜひほかの作品も観たい。今回は無理なので、また上映される機会が設けられることを希望する。

次の上映まであまり時間がないので、前の休憩時間に買っておいた晩ごはんを急いで食べる。