実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『赤い荒野』(野口博志)[C1961-34]

京橋へ移動してフィルムセンターへ。PASMO導入後初めての東京メトロなので、パスネットが残っているにもかかわらずSuicaを試してしまう。これでやっと香港なみになったと思うと感慨深い。

フィルムセンターの特集はまだ「シリーズ 日本の撮影監督(2)」(公式)。今日の映画は宍戸錠主演の『赤い荒野』(goo映画)。キャメラマンは永塚一栄。二巡目のせいかすいていて寂しい。常連さんも全然見かけない。

和製西部劇と言われている『赤い荒野』は牧場乗っ取りの話で、宍戸錠の役柄は渡り鳥シリーズで小林旭がやっているのとほとんど同じ。この映画のオリジナルな点は、宍戸錠、小高雄二、内田良平の関係である。三人はかつては悪い仲間だったが、宍戸錠と小高雄二は、南田洋子の父親(牧場をやっている元刑事)のおかげで更生し、内田良平だけが刑務所に入っていた。小高雄二は南田洋子と結婚して牧場を継ぎ、宍戸錠は身を引いて牧場を去った……という設定。しかしそれらは、「そういう設定ですよ」ということを観客に知らせるために、主に台詞で語られるだけだ。物語に適度な陰影を与える要素をせっかくいろいろ入れているのに、それらがうまく料理されていない。出所した内田良平は牧場を乗っ取ろうとする側につき、宍戸錠、小高雄二に対して単純に敵対する立場になる。かつては友だちだったのだから、もう少し愛憎相半ばする気持ちやそれによる心のゆれみたいなものがあっていいと思うが、どちらの側にもそういったものは感じられない。小林旭に対する宍戸錠のように、助ける側にまわるわけでもない。南田洋子宍戸錠が好きだったかも、と匂わせているので、宍戸錠と小高雄二とのあいだにも過去のわだかまりみたいなものが多少あってほしいが、それも感じられない。過去の女がからむところが、小林旭と違って宍戸錠のオトナなところかなと思うのだが、あまりうまく生かされていない。というより、そもそも宍戸錠には内面がないのだから、内面を期待させる設定が間違っているのかも。

しかしそれにもかかわらず、内田良平の存在感は圧倒的だ。なぜか黒ずくめで現れる内田良平はすごくクールで、この映画は内田良平の映画といっても過言ではない(ただのヒイキ目?)。日活出身ではない彼には日活的野暮ったさがなく、日活映画ではちょっと異質な感じがする。一方、宍戸錠と小高雄二はなぜかとってもワイルドで、本当に牧場で働いているみたいな雰囲気。

宍戸錠主演の日活アクションならとりあえず観たいけれど、今回これを観ようと思った一番の理由はロケ地が三瓶山(公式)だからだ(そんなんばっか)。三瓶山に行ったのはものすごく昔で(でももちろんこの映画が撮られたよりはずっとあとだ)、具体的な風景の記憶はないし、映画に出てくるところは観光地ではなさそうなので特に感慨はなかった。でも繰り返し出てくる吊り橋と、大田市内と思われる商店街が気になる。「さんべい」とか「おおた」とか言っているみたいだったのも気になるけれど。

ところで、出てくる歌がことごとくとってもヘンだった。当時の日活映画の登場人物はすぐに歌うし、ヘンな歌も珍しくない。しかしこの映画はとりわけヘン。小林旭だったらヘンな歌でも堂々と自信たっぷりに歌ってしまい、こちらを恥ずかしくさせない迫力があるが、宍戸錠は歌うのが板についていないうえに下手くそなせいかもしれない。いづみさま弟@『あした晴れるか』(杉山俊夫)の歌もヘンだった(この人歌手ですか?)。