実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『密航0ライン』(鈴木清順)[C1960-61]

シネマヴェーラ渋谷の特集「鈴木清順 再起動!」(公式)で『密航0ライン』を観る。

主役はライバル紙の記者の長門裕之と小高雄二。麻薬密売組織を暴くためなら友人も恋人も利用する長門裕之と、よいこの正義漢で、密航船に潜りこむときもちゃんとパスポートを用意する小高雄二。対照的なふたりのキャラクターはいささか紋切り型ながら、長門裕之は好演しているし、緊張感をはらんだサスペンスでなかなか見ごたえがある。音楽も渋いし、一見事件は解決したように見えて黒幕は安泰、悠々と合法的に日本を去るという、ハードボイルドな結末もいい。

組織のボスと目される男は香港暗黒街の黒幕。香港との間には密航ルートがあり、麻薬は香港からやってくる。子供のころ、香港といえば、女の子が売り飛ばされるところか、犯罪者が高飛びするところ。麻薬に殺人に暗黒街。怖くてちょっと興味をひかれるところ。この映画には香港自体は出てこないけれど、そんな懐かしい香港イメージがいっぱい。「東京は第二の香港になろうとしている」と危惧する長門裕之。おう、なってもらおうじゃないの。「なってなってー」と心のなかで叫ぶわたし。

女性陣は清水まゆみと中原早苗。それほど出番は多くないものの、ベッドシーンや妖艶なチャイナドレス姿を見せる中原早苗が、地味な出演者のなかで輝きを放っている。ところで、この映画に内田良平は出ていない(クレジットにもない)のに、チラシにも各種映画データベースにも彼の名前がある。