東京国際映画祭第五日も朝から六本木へ。まず老虎東一居でランチを食べ、初めて六本木ヒルズの青山ブックセンターへ行ってみる。比較的凡庸だがABCらしさも出ており、あまり広くないわりには悪くないかもしれない。ここより明らかに広いランドマークプラザの有隣堂(ここは本当にカスみたいな本屋だ)よりはずっといい。
今日の一本目、映画祭十本目はアジアの風の『アリスの鏡』。監督は姚宏易(ヤオ・ホンイ)。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の助監督をしていた人だということで、侯孝賢が監製を務めている。
映画は、曉鏡(歐陽靖)と阿咪(謝欣穎)という女同士のカップルと、小豪(段鈞豪)という男の三角関係を描いたもの。まず、曉鏡と阿咪という一応安定した関係がある。そこに小豪が加わって阿咪とくっつく。そうすると三人の関係は不安定になり、いろいろな反応が起こる。それらの反応が収まり、とりあえず再び安定する(それはささいなことで再び変動する、極めて不安定なものであるのだが)。キャメラは、三人の誰かに肩入れすることなく、少し離れてこれらの動きを淡々と捉える。だから観客は、そこで提示される関係の変化を、ただ静かに見るだけだ。だけど、三人それぞれの反応からは、三人の性格や背景、それぞれの関係が少しずつ垣間見える。三人が、何事もなかったかのようにテーブルのまわりに佇んでいるラストシーンが好きだ。台北の冬の光の弱さが伝わってくるような映像もよかった。
曉鏡を演じる歐陽靖(オウヤン・チン)は、侯孝賢の『百年恋歌』[C2005-20]の2005年篇で舒淇(スー・チー)が演じた役のモデルである。舒淇には似ておらず、王菲(フェイ・ウォン)をごっつくしたような感じだ。阿咪を演じた謝欣穎(シェ・シンイン)はかわいかった。小豪を演じた段鈞豪(ドゥアン・ジュンハオ)は、『現実の続き夢の終わり』[C2000-01]、『ミレニアム・マンボ』[C2001-10]、『小雨の歌』[C2002-10]など、いろいろな映画に主演級の役で出ている。今回は、ひと目見て「えらい太ったんと違いますか?」と心の中で突っ込んでいたら、曉鏡の手紙だったかに「ひとまわり太った」というのが出てきて笑ってしまった。曉鏡のお母さんを陸奕靜(ルー・イーチン)が、小豪の伯父さんを高捷(ガオ・ジェ)が演じているという脇の豪華さは、侯孝賢監製の力だろう。
『アリスの鏡』と『百年恋歌』の2005年篇は、ストーリーが似ているというわけではないが、全然違うというのでもない。音楽も、1曲同じ曲が使われている。ここで気になるのは、『百年恋歌』はもともと三人の新人監督がオムニバスで撮る予定だったということ。もしかして2005年篇の監督は姚宏易の予定だったのではないだろうか。
上映後、姚宏易監督をゲストにティーチインが行われた。ないと思っていたティーチインがあったので、セガフレードに行く時間がなくなった(もちろん、ティーチインがあったほうがいいのだが)。