実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ラブン(Rabun)』(Yasmin Ahmad)[C2003-31]

東京国際映画祭第二日は午前中から六本木へ。今日の一本目、映画祭二本目は、アジアの風の『ラブン』。「マレーシア映画新潮」という特集の中の、「ヤスミンの物語」というヤスミン・アハマド監督特集の一本。『細い目』(id:xiaogang:20051026#p2)の前に撮られた監督デビュー作である。前売りを2枚買おうとして1枚しかとれなかったが、思ったとおり空席がある(当日券が出ていたのかどうかは確認していない)。

去年の映画祭で観た『細い目』がなかなかおもしろく、今回のヤスミン・アハマド監督特集はできるだけ観たいと思ったが、これはTV用ということだったので実はかなり迷った。映画祭公式サイトの紹介文やスチルも、あまり興味を惹くものではない。ほかに観る機会もなさそうなので観ることにしたが、すごくおもしろかったので観ることにしておいて本当によかった。

『細い目』と同じくオーキッドという女の子が出てくるが、今回は彼女は脇役で、彼女の両親が主役。父親は目が不自由なうえにほかの病気も抱えているが、母親は元気いっぱい。『細い目』と同じく、異様に仲がいいふたりは、定年を機に田舎の家に手を入れて、そこで週末などを過ごそうとする。都会は悪人ばかりで犯罪も多いが、田舎は素朴で安全だとか、隣が親戚だから安心だとかいったステレオタイプな思い込みに対して、それを覆すような田舎での体験が描かれる。マレー系マレーシア映画というと、華人が悪人に描かれていないかついチェックしてしまうが、この映画では血の繋がったマレー人が悪人で、中国系の青年(なんとエルヴィスという名前である)はいい人。最終的には悪人も改心して、老人も若者も、マレー系も中国系も一緒になって、缶を倒すゲームに興じるシーンで終わる。コメディだが、根底に強い人間肯定的な気分が流れていて、気持ちのいい映画である。

エルヴィスが、オーキッドをお嫁さんにしないかと言われて、割礼にビビるところがおもしろかった。イスラム教に改宗するときは、割礼は形式的なもので、実際にはやらなくてもいいと聞いたが違うのだろうか。オーキッドとボーイフレンドが家に二人っきりでいるシーンもあり、未婚の男女が家に二人でいたら宗教警察が飛んでくるというのも聞いたことがあるが、都会ではそうでもないのだろうか(まあ見ていてチクる人がいなれけばわからないわけだが)。

会話の声を含め、虫や鳥の鳴き声などいろいろな音が印象的な映画。音楽も多様だが、P. RAMLEE(P・ラムリー)の“Getaran Jiwa”が使われていて嬉しかった。そういえば『童年往事 - 時の流れ』(侯孝賢)へのオマージュかもしれない、自転車曲乗りシーンもあった。ヴィデオなので、せっかくの田舎の緑がきれいじゃないのが残念だ。