実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『懲役十八年』(加藤泰)(東映チャンネル)

実家から送ってきた梨を食べてから、スカパーの東映チャンネルで加藤泰監督『懲役十八年』を観る。先日読み終えた『昭和の劇』(ISBN:487233695X)で取り上げられており、観たいと思っていたところだったのでグッド・タイミングだ。監督・加藤泰+主演・安藤昇の組み合わせは、『男の顔は履歴書』が傑作なだけに期待をそそる。しかし、『阿片台地 地獄部隊突撃せよ』もイマイチだったように(でも今調べたら南原宏治が出ている。観たときは認識していなかったからもう一回観たい)、これも期待したほどではなかった。ただし、この映画はテレヴィ画面にははなはだ向かないうえに、キッチンの音がうるさくて多くの台詞が聞き取れなかった。一応今回の感想を書いておくが、これで評価を下すことはできないので、ぜひとも映画館で観たい。

安藤昇小池朝雄はかつての戦友であり、遺族によるマーケットを作るために物資の強奪をやっていたが、安藤昇はつかまって服役し、小池朝雄は理想を捨て、ヤクザとしてのし上がる。これに、ヤクザより恐い看守のいる地獄のような刑務所生活とか、刑務所を改善し受刑者の更生を助けようとする大学出の職員とか、安藤昇の監房に入ってくる戦友の弟とかが絡む。しかし、いまひとつちぐはぐでうまく絡み合っておらず、全体に詰め込みすぎな印象を受けるし、それぞれのエピソードは描き足りず、余韻や深みが感じられない。

安藤昇が正しすぎて(刑務所に入れられるようなことはしているわけだが)葛藤がない点に根本的な問題があり、このため安藤昇はいまいちぱっとしない。台詞には、脚本の笠原和夫の思いがいろいろ込められているようだが、全体に台詞に頼りすぎである。小池朝雄が演じているという時点で裏切ることがわかってしまうのもつまらない。

一方、いつも思わせぶりな水島道太郎と、悪徳看守ぶりが板についた若山富三郎が印象に残る。若山富三郎は『緋牡丹博徒』などのコミカルな役よりも、こういった凄味のある悪役のほうが絶対に合っている。凄味を感じさせるシーンもいいが、小池朝雄の無謀な頼みに「俺はこれでも法の番人だ」とか言うところもよかった。まだ髪の短い近藤正臣(そんな時代があったんだ)が、やたら威勢のいい戦友の弟を演じているが、あまりに単細胞なので感情移入できない。