『迷いの園』読了。『自伝の小説』(ISBN:4336043841)に続いて(書かれた順序は逆だが)二冊目の李昂。なかなかおもしろかった。
- 作者: 李昂,藤井省三,桜庭ゆみ子
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1999/03/01
- メディア: 単行本
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この小説は、台湾の戦後史を描いた小説という面と、フェミニズム小説という面がある。上に書いたことと重なるが、興味深いのは台湾の戦後史のほうだ。朱影紅の父親は、政治犯として投獄され(解説には二二八事件と書いてあったが、その少しあとではないだろうか?)、釈放されたあとも監視付きの軟禁状態に置かれて、人生を奪われてしまった人物である。日本統治時代は決して日本名を使わなかったのに、国民政府のひどさがわかってからは娘を「綾子」と呼び、日常的に日本語を話しているという設定や、有名な、国民党軍兵士と水道の蛇口の話が出てくるところは、今読むとちょっとステレオタイプな感じもする。しかしこの小説が書かれたのが1991年であり、書きたいことを書けるかどうか微妙な時代だったことを考えれば、そうでもないのだろう。