実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ブロークン・フラワーズ(Broken Flowers)』(Jim Jarmusch)[C2005-35]

朝9時10分から、ジム・ジャームッシュの新作、『ブロークン・フラワーズ』(公式)を観る。ジャームッシュは初期の頃は欠かさず観ていたけれど、最近は観てもいいし、観なくてもいい、といった位置づけ。本作を観た理由は、カンヌでの受賞など前評判の高さと、たまたま予告篇を見ておもしろそうだったから。

隣に住むウィンストン(ジェフリー・ライト)にああしろこうしろと言われると、必ず「いやだ」と言うドン(ビル・マーレイ)が、次のシーンでは言われたとおりにしているという、『丹下左膳餘話 百萬両の壺』へのオマージュ映画。もっともこの映画は山中貞雄ではなく、ジャン・ユスターシュに捧げられている。

表面的なストーリーは、ドンが「あなたの息子を育てている」というピンク色の手紙を受け取り、差出人を探して20年前に付き合っていた女性たちを訪ね歩くロードムービー。息子がいそうな気配はどの女性にもなく、一方の「ピンク」という手がかりは、どの女性のまわりにもあふれている。このピンクの過剰がいかにもアメリカである。なにせアメリカの定義のひとつは「太ったおばさんがピンクのジャージを着ている国」なのだ。

喜怒哀楽を表さないビル・マーレイの顔、どんどん悲惨になる女性たちの歓迎ぶり…。私にとって『ゴースト・ドッグ』以来のジャームッシュ作品は、おかしさの中に人生の哀歓が漂う、思いっきりジャームッシュ・テイストな映画だった。おもしろかった。だけどやっぱり、観てもいいし、観なくてもいい、かも。