実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『信子』

松竹110周年祭は、『有りがたうさん』と『簪』が入っているのに気をとられて、未見の清水宏作品『信子』をもう少しで見逃すところだった。平日5時からという「喧嘩売ってんのか?」というプログラムだが、4時前に会社を出て銀座に向かう。ところが横浜で東海道線が止まって、横須賀線に乗り換えてなんとか間に合ったが、前売りを買う時間がなく、1600円も払う羽目になった。こんなに高い映画は久しぶりである。状態はかなり悪くて、目が四つになったり音声がなくなったりしたのだが。

新任の女学校教師、信子(高峰三枝子)と、彼女に反発する女学生(三浦光子)とを中心にした学園もの。高峰三枝子が訛りの抜けない体操教師というのは、そのモダンな外見とのギャップが笑えるにしても、ちょっとしっくりこない。対抗するわがまま娘が三浦光子なのもいまいち冴えない。終盤、三浦光子が泣いて謝って和解したり、物わかりのよい父親が校長に苦言を呈したりするお定まりの展開もいただけない。

しかしこの際ストーリーなどは脇に置き、笑える細部や清水的なところを楽しむべきだ。清水といえばハイキング。もちろん女学生たちはハイキングに行く。ただし筋肉痛になって按摩にかかったりはしない。女学生たちが広がって歩いているところにバスが来るシーンは、思わず「有りがたうさんのバスか?」と思ってしまう。高峰三枝子が「昨夜は腹が立って、一睡もしませんでしたよ」と言ったり、泥棒の日守新一が「どうも、失礼しました」と言ったり、どこかで聞いたような台詞もあるが、実はこの映画のほうが『簪』よりも前だ。三浦光子がハイキングの途中で車に乗ったり、高峰三枝子があんみつをもう一杯おかわりしたり、後年の小津映画の元ネタかとも思えるシーンもある。

『信子』はすいていたが、次の『残菊物語』は外まで並んでいた。『残菊物語』は未見だが(殴られそう)、ミゾケンより清水だよね。