実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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[映画]『フル・オア・エンプティ』

またMeal MUJIで夕食を食べて、東京フィルメックスの会場へ。まずクロージング・セレモニー(閉会式って言えよ)が行われ、受賞結果が発表された。最優秀作品賞が『バッシング』、審査員特別賞が『あひるを背負った少年』。これらがコンペ作品で最も優れていたとは思わないが、受賞結果には納得する。前にもどこかに書いた気がするが、賞というのは必ずしも最も優れた作品がもらうべきだとは限らない。作り続けるために、見せ続けるために賞が必要な映画というのがたしかにあって、そういう作品に与えられるのはまっとうなことだと思う。それとは別に、非常にジャリリ色の出た受賞結果という気もするけれど。

クロージング作品は、アボルファズル・ジャリリ監督の新作、『フル・オア・エンプティ』。最新作『ハフェズ』(ビターズ・エンド製作だからちゃんと日本公開される。すごく楽しみ)の準備中に即興的に撮った作品ということで、ジャリリとしては珍しいコメディ。いつものジャリリ作品に見られる痛みみたいなものはないが、これはこれで楽しい。教職につくことと夢で見た少女と結婚することを目標に、がむしゃらに突き進む少年のお話。次々に新たな商売を考え出して実践するアイデアと行動力、商売に失敗しても、強制労働させられても、少女の兄にボコボコにされてもめげないタフさはすごいが、いちいちどこがズレているのがまたいい。家賃もロクに払えないこの少年に、大家のおばさんはとても親切にする。イスラム世界では善行は死後に報いられると思っていたが、このおばさんの親切はすぐに報いられて、パキスタンから来たお医者さんに見初められる。でも少年の努力は結局報いられず、大家さんがパキスタンへ行っている間に、庭に木を植えてひっそりと去って行く。そこにホロリとさせられそうになっていると、その木が作り物だったりする。

インド映画のVCDを観て、現実も映画のようにうまくいくと思ったり、ヌンチャクが得意だったりするところは、インド映画や李小龍(ブルース・リー)映画の広がりを感じさせもする。少年の住んでいるあたりはかなり田舎っぽかったが、実は大学もネットカフェもあるそれなりの都会だった。ロケ地のチャバハール(手元の地図ではチャー・バハル)はパキスタン国境に近い、アラビア海に面した都市。イランは広い。

上映後、ジャリリ監督を迎えてQ&Aが行われた。Q&A採録こちら([亞細亞とキネマと旅鴉]の[映画人は語る])。ジャリリはオープニング・セレモニーの挨拶で、「4番目に恐いのは友だちの結婚のことです」と言っていたので、てっきり市山さんが結婚するのかと思ったが、まだお嫁さん募集中のようだ(本人の意向はわからないが)。