実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『世界』

待ちに待った賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の新作、『世界』を観に行く。インターネットを覗けば、製作中の映画の内容も、現地公開の様子やその評判も、映画祭での上映や受賞の情報も、日々リアルタイムで入ってくる。そんな時代に日本の映画公開状況はひどすぎないか。

北京の世界公園を舞台に(主なロケ地は深[土川]の世界之窗らしいが)、ダンサーの小桃と、その恋人で警備員の太生を中心にした群像劇。少数の人物によってある時代を通時的に描いた『プラットホーム』とは逆に、多くの登場人物を少しずつ絡ませながら、現在を共時的に描いている。

物語は、世界公園にあるパリ、ウランバートル、東京といった都市と、現実の場所とを絡ませながら進行する。パリとウランバートルは実際に登場人物に関連する場所だが、東京は、両親の上京の物語を『東京物語』になぞらえたもの。『長恨歌』に続いて(といってもこっちが先)画面に小津映画の音楽が流れる(クレジットもあり)。両親が北京に出てくるのは、子供に会うためではなくて子供が死んでしまったから。友人たちが紙銭を燃やしてお弔いをする横で、熱海の堤防よろしく工事現場に並んで座る無言の両親。うーむ。

物語の核になるのはコミュニケーションと国外へ出ることとお金。方言で語り合う同郷人のコミュニティ、携帯電話と携帯メイル、共通の言葉をもたなくてもわかりあえる関係。国外に出ることへの漠然とした憧れ、自由などない海外出稼ぎの現実、エッフェル塔の見えない移民の街。従業員のお金を盗む警備員、お金のための売春や時間外労働、借金と賠償金。現在の中国の多様性や格差を反映するように、相反する様々なものが併置されている。ダンサーの更衣室、ミニチュアのエッフェル塔の展望台、モノレールの車内、近所の食堂といった場所を定点観測的にとらえつつ、登場人物が動き変化するさまを通して北京の今が鮮やかに描かれている。