1本目はアジアの風のオープニング、『長恨歌』。關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の新作。ゲストは關錦鵬、鄭秀文、胡軍で、最初に舞台挨拶があった。胡軍は、ゲストが少ない(小泉のせいだ)今回の映画祭の目玉だが(ほんとか?)、サングラスをかけていてかなり怪しいおっさんだった(顔見せてください)。
映画は、激動の時代に生きのびていけない男ばかりを愛してしまう女(鄭秀文)と、激動の時代の中でもなんとかまっとうに生きていく男(梁家輝)の物語。鄭秀文が愛する三人の男に、胡軍、呉彦祖、黄覺(『恋愛中のパオペイ』の人ですね)。一回観ただけではまだ十分消化できていないが、とりあえず感じたことを並べておく。
- 字幕による説明を多用した構成はどうなのか。『藍宇』で字幕などを一切使わずに時代の変化を絶妙に表したり、『赤い薔薇 白い薔薇』で小説の映画化ということをあえて見せるような工夫をしたりしていた關錦鵬としては、ちょっと芸がないように思えた。今回は時代が変わると男も変わるので、あえてそうしたのかもしれないが。
- 鄭秀文は力不足だと思う。存在感が足りないし、泣いたりわめいたりする演技は見ていられなかった。かつて葉玉卿や邱淑貞を別人のように変身させた關錦鵬の演出力も、鄭秀文には効かなかったのか。
- 鄭秀文の顔はおばさんくさくて好きじゃなかったが、ばっちりメイクをしないとけっこうかわいいことがわかった。胡軍の愛人になったあとの一番美しいときがいつもの鄭秀文の顔で、ここはあまりいいとは思わなかったが、若いときと年とってからの顔は別人のようにかわいい。
- 胡軍がとてもよかった。
- 梁家輝もよかった。俳優には年齢的な転機が何度かあるが、だいたいにおいて香港の美男美女俳優は、中年への転換が課題だと思う。梁家輝の場合、『天上の恋歌』『たまゆらの女』などを観ても、すごくいい感じに年取って、いい感じにくたびれている(同世代の二枚目俳優に比べて、二枚目度がちょいと落ちるせいもあるかもしれないが)。でも、最後はあまりに醜く老けさせすぎでは。
- 呉彦祖は一見ダンディに登場するが、この人は口が駄目ですね(いまさら言うことではない?)。こうなったら香港の大友柳太朗をめざすしかないか。
- 小津安二郎映画の音楽(『秋刀魚の味』『小早川家の秋』)は、小津映画をよく知っている者からみると、やはり浮いていた。気もそぞろになって画面に集中できなかったこともあり、「なぜここで小津か?」というのはまだ十分把握できていないのだけれど(最初は呉彦祖のテーマかと思ったが、そうでもないようで)。
- 監督は舞台挨拶で「上海が主役」と言っていたが、そこまで十分に街やその変化が描かれていたかはやや疑問。これももう一、二度観てみないとわからないのだが。
上映後はティーチ・インがあったが、舞台挨拶とティーチ・インの準備に手間どった分が差し引かれて10分ほどしかなく、残念でした。概要は次のとおり。