シネマート六本木のSintok2012シンガポール映画祭(公式)で、陳彬彬(タン・ピンピン)監督の『インヴィジブル・シティ』を観る。
- シンガポールの過去の記憶を記録する人々を描いたドキュメンタリー。記録する人を記録する、というところがユニーク。
- シンガポールといえば、日本の占領期に関する語りを収集していることで有名だが、この映画はそれではなく、もっとマイナーな人々を描いている。ゴミを掘り出して過去の暮らしを知ろうとする人、華語学校の廃止に対する抗議運動に関わった人々の名誉を回復しようとしている人、過去の貴重な映像を経済的価値から一人占めしようとしている人、古い建物の写真を撮り続けた人など。それぞれ興味深く、もう少しひとりひとりの人物や活動を深く知りたいと思った。
- 日本の占領下で苦しんだ人を記事にした日本の記者も登場していて、彼らがどれだけひどい目にあったかということだけを書いても記事にならないという、考えさせられるコメントと共に、衝撃的な映像が流れた。シンガポールを訪問した天皇を在留邦人と思しき人々が歓迎している映像で、ほとんどが小さい子供を連れた若いおかあさん。まるで韓流スターが来たみたいに天皇の車列に「きゃー、陛下ー」とか言ったり(それはまあ別にいいのだが)、植樹のところで記念撮影をしたりと遠足気分。彼らはかつてシンガポールで、天皇の名のもとに何が行われたのかを知っているのだろうか。知っていたらそんなに無邪気にそこにいられないと思うのだが、そもそも彼らは動員なのか、それとも自主的に来ているのか。どちらにしてもおそろしい。