実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『唐獅子警察』(中島貞夫)[C1974-30]

同じくシネマヴェーラ渋谷の特集「中島貞夫 狂犬の倫理」(公式)で、『唐獅子警察』を観る。

唐獅子警察【DVD】

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小林旭渡瀬恒彦は、ろくでなしの父親のためにバカにされて育った異母兄弟で、互いに愛憎相半ばする気持ちを抱いている。さっさと故郷を捨ててヤクザになり、いまは出世しているアキラ。故郷の舞鶴でくすぶっていて、アキラの母親の面倒までみた渡瀬恒彦。貧乏くじを引かされたと思った渡瀬は、上京して愚連隊からのし上がり、兄に対抗する。オトナの事情を受け容れず、その矛盾を容赦なく突き、義理も仁義もなく疾走する渡瀬恒彦の存在が、ヤクザ映画というより青春映画のかほりを漂わせていておもしろかった。仁侠映画とも実録映画とも違っていて新鮮だ。

小林旭渡瀬恒彦なら当然アキラを応援したいところだが、映画が渡瀬に寄り添った視点で描かれているのと、渡瀬には安藤昇がついているのとで、無意識に渡瀬に肩入れして観てしまう。途中でふと我に返って、「あ、いかんいかん、アキラ応援しよ」と思ったりする。

ラストは舞鶴での兄弟対決。スラムのようなところを駈けまわるロケ撮影は、香港映画みたいで楽しい。これが調景嶺だったら、などと妄想したりもする。刃物対決になってもみあったあと、目の下から血を流すアキラの、「よくも顔に傷をつけたわね、わたしは女優よ」といった表情のアップのショットが長く続くのも楽しい。渡瀬もこのとき顔に傷をつけられているが、彼は平気そうだった。