シネマヴェーラ渋谷の特集「中島貞夫 狂犬の倫理」で『狂った野獣』を観る。
- 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
- 発売日: 2011/02/21
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路線バスが乗っ取られ、いろんな乗客がエゴをむき出しにして勝手なことを言い、ワケありな客も乗り合わせていて事件は思わぬ展開に…というストーリーは、先が読めなくてで緊迫感があり、なかなかおもしろいかったし、よくできていると思う。ただ、キャストがもうどうしようもなく地味。スターは渡瀬恒彦だけ。強盗役に抜擢された川谷拓三と片桐竜次はなかなか好演しているけれど、川谷拓三みたいな人はちょっとだけ出ているから味があるのであって、出ずっぱりでがんばられるとおなかいっぱいだ。
舞台は京都で、ほとんどがロケ。『893愚連隊』[C1966-51] を観たとき、祇園も西陣も舞妓もお祭りもお寺も出てこない、京都が舞台の現代劇ってめずらしいなと思ったのだけれど、この映画を観てナゾが解けた。京都撮影所で、ロケ中心の現代劇を安上がりに撮ろうと思ったら京都を舞台にするしかない。そういうことなんですね。
京都が舞台である必然性もないし、特に京都ならではのものも出てこないけれど、最後の人質の記者会見のところで京都弁が効いていて、京都で撮った甲斐があったね、と思った。子供が渡瀬恒彦の正体をしゃべりそうになって、慌てた大人(おばさん)たちが京都弁で言う。「坊や、嘘つきは泥棒のはじまりえ」「そうえー」。大阪人のようにストレートに強欲なのとは違って、京都的な屈折したえげつなさみたいなものが、この台詞とそのまったりしたリズムやイントネーションに凝縮されているように思える。
バスジャックされた運転手が実は心臓病で、病気を隠して無理して勤務していたというのが、最近のいろいろな事故報道を連想させ、すごく今日的な設定だと思った。労働環境がぜんぜん改善されていないというか。