実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『裏階段』(井上梅次)[C1965-41]

神保町シアターの特集「華麗なるダメ男たち」(公式)で、井上梅次監督の『裏階段』を観る。

監督が井上梅次、主演が田宮二郎司葉子成田三樹夫、安部徹。そりゃいったいどこの映画です? 答えは大映。いずれにせよ、すごく珍しい組み合わせであることはまちがいない。ストーリー的には特別どうということもないが、このなかなか豪華なキャストとその組み合わせの珍しさを楽しむ映画。

田宮二郎は、胡散臭い安部徹に雇われて事件に巻き込まれるピアニスト役。過去の罪の意識と挫折感を背負ってはいるものの、別にダメ男でも悪い男でもない。にもかかわらず、必要以上にキザでナルシスティック。田宮二郎めあてで観たわたしにとっては、『その夜は忘れない』[C1962-46]の物足りなさを補って余りある満足感を味わわせてくれた。役柄的には過去を背負った正義のヒーローに近く、小林旭主演の日活映画として作られてもぜんぜんおかしくない。それも観てみたいが、それだったら数あるアキラ主演映画の一本として埋もれてしまったかもしれない。少なくとも、「ダメ男」特集で上映されることはないだろう。

司葉子の悪女役は、すごくうまくいっているとはいえないものの、なかなかがんばっている。最初の登場シーンのインパクトだけでも、彼女の起用は成功しているといえるだろう。断りに行ったはずの田宮二郎が、階段を降りてくる司葉子をひと目見たとたん、仕事を引き受けてしまう。彼が単にその美しさに魅了されただけではなく、彼女なら信じられる、もしかしたらこの仕事は胡散臭くないかもしれない、真面目に彼女の力になってあげられるかもしれない…と思ってしまったということを、観客に文句なく納得させてしまっているのだから。これがもし若尾ちゃんだったら、悪女の匂いを嗅ぎつけたうえで、騙されてもいいという魅了のされかたになってしまってダメである。

田宮二郎と対抗するのは、もちろん安部徹ではなくて成田三樹夫である。ふつうならば田宮二郎成田三樹夫かというのはどちらも捨てがたくて迷うところ。しかしこの映画では、成田三樹夫はヘンな変装をしていてアウトである。司葉子が、内田朝雄→成田三樹夫田宮二郎と男を変えるのも頷ける(それにしても最初がひどい)。変装のせいではなく、最初からただの運転手には見えないアヤしさをぷんぷん発しているのと、素顔を出した終盤部分はいいけれども。

大映作品の安部徹はたぶんはじめて見たが、東映映画などの邪悪な感じとはまた違った、アヤしさ満点の悪役で、なかなかおもしろかった。安部徹と司葉子が実の兄妹というのはあり得ないと思うが。ワンパターンなイメージの強い安部徹だが、『肖像』[C1948-16]とか『地獄の波止場』[C1956-34]とかこれとか、最近いろんな安部徹を見るなあ。