新文芸坐の特集「追悼 高峰秀子 アンコール」(チラシ)で、阿部豊監督の『細雪』を観る。原作はずっと前に一度読んだきりで、比較できるほど憶えていない。映画化、テレビドラマ化、舞台化されたものはどれも観ておらず、これがはじめて。
『細雪』の映画化というと、今をときめく美人女優を4人集めて、それを見ただけでおなかいっぱいで、「こんな姉妹いるわけないだろ」と思ってしまう…というイメージがある。ところが初映画化であるこの作品の四姉妹は、花井蘭子、轟夕起子、山根寿子、高峰秀子。正直なところ、かなり地味である。これでもデコちゃんの弁によれば看板女優を並べたらしいが、なにぶん新東宝だからね。しかしながら、この適度に地味なキャストがなかなか悪くない。みないちおう美人女優あるいは元美人女優なわけで、実際にいたらかなりの美人姉妹だが、いてもおかしくないくらいには地味である。この適度な地味さ加減にリアリティがあるし、全体に落ち着いた雰囲気があっていい。
この中では、もちろん末娘の妙子を演じる高峰秀子がいちばんきれいだし、スターである。したがって、デコちゃんがそれはもうきれいに撮られていて、それだけでも一見の価値がある。彼女が女優として最も活躍するのはもう少しあとの30代くらいだが、美しさはやはりこのころがピークだろう。
美人といえば、四姉妹のなかでいちばん美人というイメージがあるのは三女の雪子で、これが山根寿子というのはかなり心配だった。もうちょっとあとの『月は上りぬ』[C1955-12]などの印象が強いので、「だっておばさんじゃん」と思ってしまって。しかしこのときはまだ20代。派手ではないが美人で、戦前の未婚女性らしいかわいらしさもあり、内気さや控えめな感じも出ていて、意外にも雪子役がすごくはまっていた。
看板女優でさえこれほど地味だから、男優陣はもっと地味だ。デコちゃんの遊び相手が田中春男、まじめにつきあう相手が田崎潤、轟夕起子の旦那が河津清三郎って…。『次郎長三國志』[C1952-08]ですか? いや、小堀明男は出ていなくてよかったよ。
船場の蒔岡家の古い家と芦屋の次女・幸子のちょっとモダンな家の対比、家そのものとそこに住む人々の気質とがリンクしてその家の空気を醸し出しているところなどもよかった。ただ原作では、滅びゆく蒔岡家に戦争へと向かっていく時代の翳りみたいなものが重なっていたような気がしたけれど、映画では時代の空気や戦争の影はあまり感じられなかった。