銀座シネパトスの特集「庶民の哀歓を描きつづけた名匠・成瀬巳喜男」(チラシ)で『あらくれ』を観る。18年ぶり二度め。
- 美人だけれどがさつでバイタリティあふれる高峰秀子が、取っ組み合いの喧嘩と男性遍歴を重ねながら人生を切り開いていく話。ふてぶてしい感じがデコちゃんならでは。
- ヒロインの人物造型(ほとんど対極)もストーリーもぜんぜん違うけれど、上原謙→森雅之→加東大介→仲代達矢という相手役のメンツが『女が階段を上る時』を連想させる。森雅之のことは本当に好きらしいとか、加東大介は「よさそうな方ですわね」と思ったのに実はとんでもなかったとか、男性陣の役柄にも類似点があるような気がする。ちなみに本作の加東大介は精力絶倫。
- 男性陣のなかでとりわけ光るのは、妻が病気の隙に女中のデコちゃんを半ば無理やりモノにする旅館の主人・森雅之。いつものような強気の女たらしではなく、けっこう本気のようなのに、気も弱ければからだも弱い。デコちゃんのあらくれぶりにも、世間の噂や家族の非難にも、ただもうオロオロするばかり。そのオロオロぶりが最高だった。
- 森雅之が最初にデコちゃんを口説くシーン、ふたりを建物の外からロングで撮っていて、デコちゃんが落ちるところで屋根から雪がざざーっと落ちるのが印象的。
- デコちゃんの男選びは、ルックスと仕事がデキるかどうかのバランスが、毎回絶妙に変化するのがおもしろい。前回の教訓から常に軌道修正が行われる。分析してモデル化するとQCストーリーとかが作れそうである。
- アコーディオンを弾き、歌を歌いながら町を歩いている軍服姿のおじさんは薬売りだろうか。歌っていた歌が『夏目漱石の三四郎』(id:xiaogang:20120607#p2)と同じだった気がする(同じ東宝だし)。そういった時代の風俗を表すちょっとしたシーンは、会社ごとにいくつかパターンが用意されていて、そのなかから選ぶのだろうか。