実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ブンミおじさんの森(ลุงบุญมีระลึกชาติ)』(Apichatpong Weerasethakul)[C2010-50]

シネマライズで、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』(公式)を観る。この監督単独の映画は『ブリスフリー・ユアーズ』[C2002-44]しか観ていないので、『ブンミおじさんの森』と言われると、「ブンミおじさんが森へ入って行って、あんなことやこんなことをするのかな」と思ってしまうが、ちょっと違っていた(ブンミおじさんじゃないけれど、そういうシーンも少しある)。

きれいな映像に長回しで、スタイル的には好きなのだが、『ブリスフリー・ユアーズ』みたいなワケのわからないパワーみたいなものはあまり感じられない。わたしは『ブリスフリー・ユアーズ』のほうが好き。人間の手垢のついていない森が舞台であること、わたしが死者とか精霊とか前世とか来世とかに興味がないことも、いまひとつこの映画の世界観に惹かれない理由であると思われる。死者や精霊の現れ方やたたずまい、ブンミおじさんだけでなくみんなに等しく見えているところなどは、ちょっとおもしろいと思うけれども。

そんなこの映画のいちばんの見どころは、ブンミおじさんのところではパッとしない青年だったトン(サックダー・ケァウブアディー)が、お坊さんになったとたん、超セクシーになってしまうところである。サービス(?)のシャワーシーンもたっぷり。そんなわけで、ブンミおじさんが死んで、舞台が街に移った最後の部分がいちばんおもしろい。

また、『ブリスフリー・ユアーズ』にはミャンマー人が出てきたが、今回はラオス人労働者が出てくる。最後のシーンで出てくるテレビのニュースの内容もおそらく意味があると思うし、一見非現実的、幻想的な映画でありながら、現実的、政治的なものが同居している点もユニークだと思う。