実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『観賞用男性』(野村芳太郎)[C1960-56]

神保町シアターの特集「女優とモード 美の競演」(公式)に初めて参加し、野村芳太郎監督の『観賞用男性』を観る。

有馬稲子がパリ帰りのデザイナーを演じ、男性もスーツばかりではなくもっとおしゃれすべきだとして鑑賞用男性服なるものを提唱し、母親の経営する広告代理店の男性用ユニフォームをデザインするという話。したがって、タイトルの鑑賞用男性というのは洋服の話なのだが、当然それを着る男性自身が鑑賞に耐えることが期待される。ところが、男性のメインキャストは杉浦直樹。髪の毛はまだフサフサとはいえ、ちょっとそれはないでしょう。次が仲谷昇で、あとはもう十朱久雄とか上田吉二郎とか、鑑賞にはほど遠い人ばかり。

有馬稲子にはあまり興味がないけれど、様々なファッションで登場し、かなり弾けていてキュート。ついでにいうと、前衛書道家を演じる三井弘次はもっと弾けている。キュートではないけどね。一瞬だけど、三上真一郎が出ているのが特記事項。

女性のファッションはきらびやかだが、肝心の鑑賞用男性服は奇抜なだけであまりパッとしない。広告代理店のユニフォームにいたっては、「え? それなの?」という感じ。だいたい、制服という発想はおしゃれとは相反するものであり、柄やネクタイが異なるぶん、スーツのほうがまだマシではないか。わたしは制服というものが大きらいなので、制服という発想が出てきた時点でかなり引いてしまった。

また、帝人が提供しており、ファッションショーのシーンでは、使われた化学繊維がいちいち説明される。当時はそういった化繊が最先端だったのだろうが、「そんなに化繊ばっかでいいのかよ」と思ってしまう。

ファッションをネタに一風変わった物語を展開しているが、基本は、鑑賞用男性服を推奨する有馬稲子と鑑賞用男性服に反対する杉浦直樹が、反発しあいながらも最後はくっつくというたわいないラブコメ。そちらの要素が強くなる後半の展開が少しダレる。