実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『イップ・マン 序章(葉問)』(葉偉信)[C2008-41]

ふたたびシネマート六本木に移動して、東京国際映画祭3本めは、葉偉信(ウィルソン・イップ)監督の『イップ・マン 序章』(TIFF紹介ページ/公式(海外))。アジアの風・【生誕70年記念〜ブルース・リーから未来へ】の一本。詠春拳の達人で、のちに李小龍(ブルース・リー)の師匠となる葉問(イップ・マン)を描いた映画。

葉偉信の作品は『SPL/狼よ静かに死ね(殺破狼)』[C2005-32]しか観ていないが、『SPL』はかなり好きな映画。なのでもう少しスタイリッシュな映画を期待していたが、今回はふつうの娯楽大作っぽくなっていた。『SPL』では超かっこよかった任達華(サイモン・ヤム)も、今回はおっさんにされてしまっていた。

舞台は1930年代の広東省佛山。道場も開かず詠春拳に勤しむ有閑階級の葉問(甄子丹/ドニー・イェン)が、佛山一の武術家として知られるようになるところから、日本軍の占領下で貧困に苦しみながら、日本軍の将校三浦(池内博之)を倒すまでを描いている。日本軍が悪者なのは当然だが、中国の武術にも一定の敬意を払い、武道においては正々堂々と戦う人として三浦を設定したり、中国人から略奪する中国人、金山找(樊少皇/ルイス・ファン)や、日本軍に協力しながらも漢奸にはなりきれない李訢(林家棟)を登場させたり、単純な勧善懲悪ではない、厚みのあるストーリーになっていて飽きさせない。もっとも、金山找が周清泉(任達華)の工場を襲うところでは、葉問が山找を説得して「国共合作」するに違いないと予想したがはずれた。

まわりの人から一目置かれる人格者の葉問を、俺様イメージの強い甄子丹が演じるのはいささか違和感があった。特に前半の葉問は、李連杰(ジェット・リー)のほうがふさわしいように思われる。甄子丹はむしろ三浦のほうが合っているのでは、とも思ったが、終盤のなりふり構わぬ感じのアクションは、甄子丹でよかったかもしれない。李連杰だと弁髪を期待しちゃうしね。

葉問が、武術は誰よりも強いのに恐妻家、というのはなかなか楽しかった。奥さんの張永成(熊黛林)が派手めな美人で、ぎろっと睨んだりする怖い感じがサマになっているので、時おりぎゃーぎゃーわめいたりするのはやめて、終始寡黙にクールに怖い顔をしていてくれたらもっとよかったと思う。

日本人の描き方では、三浦が「日本の天皇」と呼び捨てにしていたのと、そのときに足をかちっと鳴らさなかったのがリアルでないように感じられた。軍靴のままずかずか畳を歩くのも、武術家としてあり得るのか気になった。