実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『導火線 FLASH POINT(導火綫)』(葉偉信)[C2007-56]

シネマート六本木で、葉偉信(ウィルソン・イップ)監督の『導火線 FLASH POINT』(公式)を観る。すでにDVDが出ているが、急遽劇場公開されることになったもの。

最初に結論を書く。甄子丹(ドニー・イェン)は現代劇に限る。時代劇や武術家の役に対しては、どうしても様式美、型の美しさといったものを求めてしまう。甄子丹のアクションには、そういうものは似合わない。めちゃくちゃだけど強い、というのが似合う。それには現代のほうがいい。そしてなるべく仁義のない世界がいい。去年から今年にかけて、甄子丹の主演作が怒濤のように公開されたが、いずれも時代劇でどこか物足りなく、甄子丹のムダ遣いと感じていた。それがこの映画ですっきり(これのほうが前の作品なのだが…)。「これよぉ、甄子丹の味は」と、荒木道子も言っている。ちなみに葉偉信監督も現代劇のほうがいいと思う。

映画はとにかくおもしろかった。わたしたちはよく映画を観て、こういう話にはこういうシーンがないといけないとか、こういうシーンはこんなふうに撮られていないといけないとか語ってしまう。それはきっと、その映画がどこかつまらないと思っているからだ。文句なしにおもしろければ、そんなことはもうどうでもよくなってしまう。

甄子丹の役は、逮捕の際に容疑者を必要以上に痛めつけ、署内で問題になっている刑事。正義の側にいるけれどもそこに収まりきらず、時にまわりから誤解されて孤立するという、まさに甄子丹のはまり役。キレのいいというか、キレたアクションは、全篇にわたって存分に楽しめる。ほとんどずっと革ジャンのようなものを着ていて、さんざん焦らしたあげく、最後の闘いの途中で満を持して革ジャンを脱ぐが、ランニングではなくてTシャツだった。よく考えてみたら、かなり最初のほうに水着シーンがあったけれど、そのときはまだ登場人物や設定などを把握するのにパワーをとられていたので、不覚にもそれがサービスシーンだということに気づかなかった。このシーンで同じく水着姿を見せている、甄子丹の相棒で、潜入捜査をしている刑事が古天樂(ルイス・クー)。彼と甄子丹のラブラブぶりは、比較的抑制された描写にとどまっている。

このふたりと対立することになるベトナム出身の三兄弟も、キャラクターがちゃんと描き分けられていてよかった。長男の呂良偉(レイ・ロイ)は、見た目は派手で相手を威圧するが、アタマは弱い。次男の鄒兆龍(コリン・チョウ)は、パッと見は地味だが、頭脳も腕力もあって、実質的なリーダー格。最後の甄子丹との闘いでは足技がすごかった。このシーンは胡金銓(キン・フー)の『忠烈図』[C1975-23]の白鷹(バイ・イン)と洪金寶(サモ・ハン)の闘いを連想させるハードさで、かなり見ごたえがあった。三男の行宇(シン・ユー)は、キレやすくてキレたら手がつけられない鉄砲玉的な役。この三兄弟は仁義も何もない悪なので、甄子丹に容赦なくやられてしまうが、難民キャンプ出身のマイノリティで、ボスがいたとはいえ、自分たちの力でのしあがっていかなければならなかったといった背景があるのもいい。

甄子丹と三兄弟の母親がそれぞれ出てきたり、古天樂の彼女(范冰冰)が出てきたりするが、危惧したほど情緒的にならなくて安心した。

キャストは、きれいどころが大陸女優ばかりなのが不満。范冰冰(ファン・ビンビン)はあまり好きになれないし、許晴(シュイ・チン)はきっとこのあとで甄子丹とくっつくと思うけれど、そもそもきれいじゃない。

クライマックスの闘いシーンのロケ地は南生圍(元朗區)。香港らしからぬ緑濃い風景や、一軒だけ建っている家など、なかなかそそられるところだった。今度訪ねてみたい。



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