安いしゃぶしゃぶランチを食べたり、エスプレッソのドブレをひっかけたり、黄金週間の予定を埋めたりしてから、日比谷スカラ座へ。王家衛(ウォン・カーウァイ)の新作、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(公式/映画生活/goo映画)を観に行く。あまり期待はしていないが、それでも王家衛の映画は公開週に観に行かねばならないだろう。混んでいるのかと思ったらかなりすいている。中華な観客も見当たらない。
誰か別の人が撮った王家衛のコピーみたいな映画だった。美術は張叔平(ウィリアム・チャン)だったが、キャメラマンは杜可風(クリストファー・ドイル)でも李屏賓(リー・ピンビン)でもないのは納得いかない。映像は「一般に王家衛っぽい(あるいは杜可風っぽい)と思われているもの」に溢れていたが、わたしの好む「王家衛っぽさ」はなかった。空ショットが少ないし、定点観測っぽいショットもないし、序盤からアップが多くて耐えがたかった。
ジュード・ロウのやっているカフェがほとんど“California”に見えたように、「『恋する惑星』[C1994-38]みたいなのを一本撮ってよ」ということだったのかもしれない。でもぱっと見は似ているけれど実はあんまり似ていない。『恋する惑星』みたいな荒唐無稽さやユーモアはこの映画にはない。ストーリーのタイプとしては、どちらかといえば『楽園の瑕』[C1994-61]や『ブエノスアイレス』[C1997-04]に近いが、それらのような切ないお話かというとそうでもない。ストーリーを担っているのが、ノラ・ジョーンズが旅をしていて出会う人たちなので、ひとつひとつのストーリーを取り上げると掘り下げが浅い。出演している人たちをほとんど知らず、興味もない、というのも大きな問題だ。王家衛映画の、出演者と映像とストーリーが一体となったあの濃密な空気がこの映画にはない。
軽く楽しめるキュートな映画ではあるが、わたしたちが王家衛に求めているものはこういうものではない。こういった注文映画(だよね?)を撮って、お金を儲けて別の映画を撮るのならいいけれど、あまり当たらないならやめたほうがいい。やっぱり王家衛には、香港とか澳門とか台北とか北京とかペナンとかで撮ってもらいたい。だいたいフランス映画ならフランスで撮れよ。