『石井輝男映画魂』読了。
![石井輝男映画魂 石井輝男映画魂](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51ygx8ZnR6L._SL160_.jpg)
- 作者: 石井輝男,福間健二
- 出版社/メーカー: ワイズ出版
- 発売日: 1991/12
- メディア: 単行本
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ナマの石井輝男監督は一度だけ見たことがある。1995年の東京国際映画祭で、清水宏の『泣き濡れた春の女よ』[C1933-05]が上映されたとき(あのころのニッポン・シネマ・クラシックはすばらしかったですよねえ)、ゲストとして登場してトークショーをやったときだ。そのときは、「なるほど石井輝男」と思わせる怪しい雰囲気を漂わせていたのだけれど(この本はそのときのイメージで読んだ)、若いころの写真を見るとけっこう地味な、ふつうの人だ(でも70年代になると怪しくなる)。
石井輝男といえば、新東宝時代に清水宏や成瀬巳喜男の助監督をつとめたことで知られている。最初のほうの、監督になる前の話では、そのあたりのことが語られていて興味深かった。誰もが「ミスマッチ」と思う組み合わせだが、どちらの監督にもたいへんかわいがられ、清水が力づくで監督に昇進させてくれたらしいし、当初は成瀬のような監督を目指していたようだ。表面的にはかなり違うようでも、ふたりの影響はかなり大きく、ふたりから学んだことは見えないところで石井作品の核になっているように感じた。
監督昇進後は、基本的に年代順に、各作品について語られている。ほとんどの作品について言及されているのが嬉しい反面、当然のことながら一本あたりの話がすごく短いのが残念である。好演した俳優はみんな「のってくれた」、監督が目新しいことをやった作品はみんな「遊んじゃった」というひとことでまとめられるらしい。
以下、気になった内容を列挙。
- 吉田輝雄、三原葉子、高倉健、嵐寛寿郎、丹波哲郎などがお気に入りで、とりわけ健さんはベタ褒め。
- やっぱり鶴田浩二とは仲が悪かったらしい。
- ちゃんと伏線が張ってあるうまくできたシナリオは嫌いで、串団子みたいになにが出てくるかわからないのが好きとのこと。石井輝男の映画そのものである。
- デビュー作の『リングの王者 栄光の世界』の主演は、のちに『異常性愛記録 ハレンチ』[C1969-26]に出演する若杉英二の予定だったらしい。「そんなブクブクにボクサーはできない」ということで断り、宇津井健に替わったとのこと。運命的なものを感じる。
- 石井輝男が入った当時の東映は、ニッカボッカにねじりはちまきみたいな映画ばかり撮っていたので、ロクな衣装もなく、壁に日活映画のポスターを貼って衣装を指示したらしい。
- 香港澳門ロケは、『東京ギャング対香港ギャング』[C1964-21]が1週間、『ならず者』[C1964-31]が2週間。
- サム・ペキンパーが好きというのはいいんだけれど、外国映画でいちばん好きな監督がデヴィッド・リーンというのは驚き。なんとも言いようがない。
この本のインタビューは、1979年の『暴力戦士』を最後にずっと映画を撮っていないときに行われたもの。石井輝男監督はこのあと映画を5本撮っている。私はその中で『無頼平野』[C1995-05]と『盲獣VS一寸法師』[C2001-30]しか観ていないことに気づき、たいへん申し訳ない気持ちになった。
フィルモグラフィーのページでは、公開当時の新聞記事などが紹介されているが、スポーツニッポンの『ならず者』の記事(23-02-1964)がおもしろすぎるので引用する。
撮影の話題になったのがマカオでの高倉と丹波の格闘シーン。ふだん立ち入り禁止区域のセントポール寺院の屋上で、特に許されての撮影だったが、すさまじい乱闘に現地のエキストラたちはシタをまくほど。……(p. 314)
セントポール寺院に屋上があったらぜひとも見せていただきたいものだ。それにあそこは誰が見てもモンテの砦である(id:xiaogang:20061230#p1)。出てくる大砲も全部特定できる。当時立ち入り禁止だったかどうかは知らない。