実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『今ひとたびの戦後日本映画』(川本三郎)[B1234]

今ひとたびの戦後日本映画』読了。

今ひとたびの戦後日本映画 (岩波現代文庫)

今ひとたびの戦後日本映画 (岩波現代文庫)

この本を読んで気になってしかたがなかったのは、繰り返しがあまりにも多いことだ。これまでに川本三郎の文章を読んでそのように感じた記憶はないし、かなり前に書かれたものなので著者が年取ったからというわけでもない。別の言葉で言い換えているとかより深めているとかではなく、単なる繰り返し。一パラグラフ読むごとに「そりゃ、さっき聞いたね」とつぶやいていると、頭の中はすっかり佐分利信である。できるだけ重複がないようにこの本を書き直すと、たぶん三分の一くらいになると思う。

内容は、戦後10年くらいの日本映画を語ったもの。戦争未亡人とか復員兵とか、あいかわらず魅力的なキーワードを挙げているものの、あいかわらずうすいというか浅い本である。個別の映画に対する個別の記述には、納得するところもあれば違和感を感じるところもある。しかし、製作意図や観客の受容の問題を扱っているにもかかわらず、実証的なものではなく著者の主観で書かれているのと、いま一歩の掘り下げがないため、「それで?」という感じで反論のしようもない。

感じたことを一点だけ挙げておくと、戦後の映画に戦争未亡人や復員兵が多く登場するのは、たしかに著者が言っているような理由もあると思うが、それ以前に、当時リアルな設定で映画を作ろうとすれば、そこに戦争の影が出てくるのが当然だったと思う。また、特に『東京物語[C1953-01]や『麦秋[C1951-02]についての文章を読んで違和感を感じたのは、当時の人々にとって、戦争や戦死というものは川本三郎が言うような観念的なものではなく、もっと生々しく血肉化されたものだったのではないかという点である。