実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『映画俳優 池部良』(志村三代子、弓桁あや・編)[B1209]

『映画俳優 池部良』読了。メインの部分はずっと前に読み終わっていたので、かなり今さらなのだが…。

映画俳優 池部良

映画俳優 池部良

私はこれまで、ワイズ出版の本に偏見を抱いていた。インタビューをよく整理もせずにだらだらと採録し、とんでもなく厚い本を作って高く売っていると。ところがこの本は、そんな私の偏見を打ち砕く良心的な本で、大きさもコンパクト(やはり出版社ではなく、作者、編者の問題なのか)。実際に映像を確認しながらインタビューしたというのも、インタビュアーの意気込みや真摯な姿勢を表している。老人の思い込みで話が進むといったありがちな状況に陥ることもないので、よい進め方だと思う。

池部良本人へのインタビューをメインに、かかわりのあった監督(この選択がいまいちだが、生きている人がほとんどいないんでしょうね)や女優へのインタビューで構成されている。池部良の語りは、いかにも知性派という感じで、テンポもよく読みごたえがある(『早春』[C1956-07]のころの池部良の声で読んだ)。「おわりに」に「できる限り池部さんの言葉を忠実に再現し」(p. 413)とあるにもかかわらず、だらだらしておらず読みやすいのは、もとのインタビューがよかったのだろう。高倉健へのインタビューが実現せず、短い書簡のみというのがちょいと残念。こういった本にはつきもののフィルモグラフィーも、できるかぎり池部良の役柄や演技に言及されており、資料価値が高い。ただし二箇所ほど間違いを見つけた。*1, *2

興味深かったのは、降旗康男監督がインタビューで次のように語っていたこと。

………池部さんのほうが健さん主演の映画があったら俺を出せよというか、出るもんだと思っている感じなの(笑)。……(p. 222)

降旗監督ではないが、『君よ憤怒の河を渉れ[C1976-16]への出演もそのような経緯なのだろうか。また、池部良には関係ないが、同じインタビューによると、『昭和残侠伝』[C1965-08]健さんの刺青は、一番有名な彫り物師が早朝から夜までかかって描いたもので、特別美しいらしい。第一作の『昭和残侠伝』は舞台が戦後ということもあり、シリーズの中では今ひとつなのであまり観直す機会もないが、今度刺青を目当てに再見したいと思う。

*1:『三人の博徒[C1967-V]には、香港は(少なくとも舞台としては)出てこないと思う。

*2:『昭和残侠伝 死んで貰います』[C1970-09]の舞台の料亭は、浅草ではなく深川である。