実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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“Bombay Velvet(बॉम्बे वेलवेट)”(Anurag Kashyap)[C2015-29]

PVR: Koramangalaで、Anurag Kashyap(アヌラーグ・カシャプ)監督の“Bombay Velvet”を再見。1週間ぶり二度め(初回の感想→id:xiaogang:20150516#p2)。

大まかなストーリーはわかっているものの、特に前半の後半部分が会話中心で進んでいくため、台詞がわからないと理解できないところが多い。したがって台詞がわかれば印象が変わる可能性があるが、とりあえず台詞がわからない状態での感想。

  • やはり、美術や音楽、そして全体のムードを楽しむ映画で、その世界にひたりきって堪能した。
  • しかし、1960〜70年代のボンベイがこんなだったのかというと、よく知らないながら疑問である。ゴアのポルトガルの香り、教会に賛美歌に十字架のネックレス、ナイトクラブにレビューにジャズ、洋装に帽子に葉巻、ハリウッド映画…といったひたすらバタ臭い世界が展開し、ほとんど1930年代のシカゴにしか見えない。あるいは上海。戦前あるいは植民地。でもまあリアリティを追求した世界じゃないから、それはそれでいいと思う。
  • ギャング映画ではなく恋愛映画だと思うけれど、その中心となるべきロマンスが弱い。Ranbir Kapoor(ランビール・カプール)とAnushka Sharma(アヌシュカー・シャルマー)は敵対する立場にあるわけだけど、その禁断度みたいなものがそもそも弱いし、そのせいか心理的な葛藤もほとんど描かれていない(ように見える)。アヌシュカーの気持ちの変化もよくわからない。
  • ランビールもアヌシュカーも、存在感が希薄というか、人物としての魅力がいまひとつな感じがする。
  • 特にランビールはすごくつかみどころのない人物で、野心はあるけどギラギラしておらず、才覚も腕力もそれなりにあるけど飛び抜けてるわけではなく、それなりにのし上がるけどそれほどでもなく。そもそもランビールが出てきて困るのは、二枚目の役なのかどうかがよくからないところである(やっぱりインド人は100%二枚目役と思って観てるのかなあ? 東アジア人はたいていちょっと疑問を感じると思うんだけど)。でも最後まで観たら、ランビールのもじゃもじゃ頭やギャングらしからぬ風貌は、全体の舞台装置にうまくマッチしているように感じられ、人物的にも新しいのかもしれないと思った。
  • アヌシュカーは演技的には“NH10”のほうがずっといいと思うけれど、最初のほうで田舎くささや薄幸感が出ているのはいいと思った。そしてアヌシュカーの顔をずっと見ていると、いつのまにか見ている自分もアヒルくちびるになってるよね。
  • 脇の男性陣はなかなかいいのだけれど、ロマンスが中心であるぶん出番が少ないのが残念である。ヒロインが添え物ではないのは喜ばしいことだけれど、こういうギャングの世界は、正直ロマンスよりも「男の世界」が観たいよね。ランビールとSatyadeep Misra(サティヤディープ・ミシュラ)は熱く見つめあってほしいよね。Kay Kay Menon(ケイ・ケイ・メーノーン)はもう少し主人公に肩入れしてほしいよね…。
  • 日本の任侠映画や実録映画をたくさん観ていると、様式美の世界も強烈な主人公も観慣れていて、海外のギャング映画にはけっこう厳しくなる。のだけれど、やっぱりギャングものが好きなので、なんだかんだ言ってもほかの世界の話よりおもしろい。ということで、最終的には評価が甘くなる。