シアター・イメージフォーラムで、マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』(公式)を観る。3年前の東京国際映画祭(id:xiaogang:20081023#p2参照)に続いて二度め。
ナポリの犯罪企業組織・カモッラを描いた映画。産業廃棄物処理業を営むフランコ(トニ・セルヴィッロ)とその下で働くロベルト(カルミネ・パテルノステル)。給料の分配を担当するドン・チーロ(ジャンフェリーチェ・インパラート)。オートクチュールの仕立屋・パスクワーレ(サルヴァトーレ・カンタルーポ)。仲間や近所がみなカモッラと関わっている環境に暮らす少年・トト(サルヴァトーレ・アブルツェーゼ)と、息子が組織を裏切った母親・マリア(マリア・ナツィオナーレ)。そして組織に属さないチンピラのチロ(チロ・ペトローネ)とマルコ(マルコ・マコール)。彼らの物語が並行して語られる。
カモッラの中でサラリーマンのように働く人物を描きながら、麻薬売買、不法な廃棄物処理、オートクチュールの下請けといった組織のシノギを紹介し、これに裏切りと抗争を絡めていく。ドキュメンタリータッチで、特に後半は、人物の比較的退屈な行動を延々と描いているところに突然の銃声、というパターンが多い。
徹底してヒーローを描かないことで、現代のギャングの実態をリアルに描きだしている。その世界は、銃と殺しがつきものであることを除けば、ギャングやヤクザというよりも一般大企業のようである。一般人も組織と何らかの関係をもち、マフィアとカタギの境界が曖昧なところは、巨大企業で成り立つ地方都市を思わせる。ヤバい事業は最初ヤクザが手をつけ、産業として成り立ってくると大企業の手に渡り、表向き法整備などが行われるが実態はたいして変わらない、といったことも連想させる。
シチリア系のイタリア・マフィアにとってはファッションは最重要事項であるらしいが、カモッラでは非重要事項であるらしい。その姿は、ジャージを着たギャング、という感じである(さすがにジャージは着ていないけれども)。メタボ率も高い。カモッラに属さないチロとマルコも含め、ブリーフ率も高い。
登場人物のだれかに感情移入するようには作られていないが、いちばん好きなのは仕立屋のパスクワーレ。縫製工場を営む中国人に呼ばれて、「食事は済ませてきた」と再三断りながら食べたらおいしかったらしく、家に帰って中華料理を賞賛する。奥さんに「中国から帰ってきたよ」と言うのもいい。映画を観終わったあとは、アタマの中が鄧麗君(テレサ・テン)。
舞台はナポリだが、風光明媚なところはもちろん出てこない。ナポリピッツァやババも出てこない。上階が階段状になっていて途中に屋上がある、トトの住む煤けた高層アパートがいい感じだった。各階で、麻薬売買や銃撃事件と結婚式が同時並行的に行われているのがおもしろい。