実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『果てなき路(Road to Nowhere)』(Monte Hellman)[C2011-30]

シアター・イメージフォーラムで、モンテ・ヘルマン監督の『果てなき路』(公式)を観る。

果てなき路 (DVD)

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ノースカロライナで起こった事件についてのブログを原作とする映画の製作過程を描きながら、実際に起きた事件、映画の製作過程、撮られた映画がときに境界線を曖昧にしながら混在する。事件の関係者が撮影に加わって原作からずれていくストーリー、事件の中心人物・ヴェルマと彼女を演じる女優・ローレルとの関係をめぐる疑惑、主演女優偏重に対する俳優の不満といった様々な要素を盛り込みながら、映画は複雑さを増していく。冒頭から銃声や墜落する飛行機で魅了し、ノースカロライナの事件の概要や真相から、ローレルとはだれなのかに重心を移しながら、サスペンス映画風に引っ張っていくが、最後までそれらの謎は明らかにされない。しかし、ヴェルマ=ローレルに、そして映画に吸い込まれていくかのようなラストに魅了されながら映画が終わると、謎が残されていることにがっかりさせられることはない。ただめっぽうおもしろかったことに気づく。だからこれでいいのだと思いつつ、しかしもう一度観たくなる。

この映画のポスターであり、同時に映画のなかで撮られている映画のポスターでもあるものの、目を閉じた女性の顔があまりに魅力的なので、ローレルを演じるシャニン・ソサモンが初めてスクリーンに登場したときは、正直なところ少しがっかりした。目を閉じていない彼女はポスターの彼女ほど魅力的に見えなかったし、いわゆるファム・ファタールっぽい雰囲気でもなかったからだ。しかし、相手役の俳優と演技の練習をする彼女、監督と部屋で映画を観ながら涙を流す彼女、ひとりのときの謎めいた彼女など多様な顔を見せながら存在感を増していき、次第にヴェルマとローレルと映画のなかのヴェルマの区別を曖昧にしながら魅力を増してくる。

トム・ラッセルのカントリー中心の音楽もなかなかよかった。映画の公式サイトにはたいていロクな情報がないからあまり見ないのだが、この映画のサイトにはちゃんと使用楽曲リストがあって感心した。

しかしながら、映画のなかで直接引用されている映画のことは何も書いてない。使われているのは、『レディ・イヴ』[C1941-07]、『ミツバチのささやき』[C1973-01]、『第七の封印』[C1957-08]。ちょっとヘンな組み合わせだけどこれはシネフィル的なのかな。『ミツバチのささやき』を引用するなんて、ふつうはできないというか、ものすごく勇気のいることだという気がする。長らく観ていないので、すごく観たくなった。