実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『一万年愛してる(愛你一萬年)』(北村豊晴)[C2010-78]

オーディトリウム渋谷で、北村豊晴監督の『一万年愛してる』(公式)を観る。

周渝民(ヴィック・チョウ)、加藤侑紀主演の、台湾人男性と日本人女性の恋愛を描いたラブコメ。あまりいい評判は聞かないが、日本人監督とはいえ台湾映画なので観ないわけにはいかない。混んでいるという話だったので開場前に行ったら、並んでいるのはほとんど女性。映画祭の台湾映画に来るような客層とはまたぜんぜん違う人たちで、ものすごくにぎやかで、なんだか居心地が悪かった。最終的には満席ではなかったけれど、「台湾映画観にきたおっさん」みたいな人もちらほらいた。

映画が始まって、輔導金ももらっているし、プロデューサーは焦雄屏(ペギー・チャオ)だし、そんなにひどいこともなかろうと思って観はじめたのだけれど…。ラブコメというのは、例外もあるだろうが、基本的に笑いが洗練されていることが必要だと思う。『あの頃、君を追いかけた』[C2011-08]レベルでもドタバタすぎてダメなのに、この映画はその10倍くらい、ドタバタでベタベタでコテコテである。いや、いくらコテコテでも、笑えるのであればストーリーと合うかどうかの問題である。しかし、笑えない。ほとんどのギャグがぜんぜんおかしくない。寒い…。また、アニメと合成した挿入シーンがいくつかあったが、はずかしくて見ていられなかった。

それに、ストーリーがテーマと合っていない。恋愛が長続きしないから3ヵ月限定でつきあうけれど、実際はそんなにきっぱりと忘れられないという話なのだから、楽しくつきあって、クールに別れて、それから…という展開になるべきなのに、3ヵ月もたないで別れるとか、3ヵ月の時点で「やり直そう」というメッセージを残してしまうとか、1年後と言っておいてそれまでがまんしないで会うというのは、なんか違うと思う。ふつうのカップルが1年くらいかけて経験するようなことを、単に3ヵ月のスピード展開で見せられても、何の意外性も感じられない。クイズ番組ではぜんぜん相手のことをわかっていなかったふたりが最後は同じ内容のメッセージを残すとか、「なるほどね」というモチーフもあるのに、全体が練り込み不足なので埋もれてしまっている。

台湾人と日本人の話だけど、無理に歴史問題などを絡ませていない点はよい。また、感動的に盛り上げようとしていない点もいいが、“愛你一萬年”を歌って踊るシーンはちょっと危ない。

加藤侑紀演じる日本人女性・みかんの魅力のなさについて、『海角七号 - 君想う、国境の南』[C2008-36]の田中千絵と同類項でくくって批判されているのを聞いたが、わたしはそれは違うと思う。加藤侑紀という女優さんは初めて見たし、特に魅力も感じなかったが、田中千絵に比べたら100倍くらいかわいい。北京語もずっとマシである(「サンハイ」って言ってたけど、周渝民も言ってるからね)。演技はちょっとはずかしいが。また特に反論したいのが、ヒステリックにわめきちらす役だという批判だけど、周渝民演じる奇峰が、共同生活のルールを守らなくてみかんが文句を言うのはよーくわかります。「あるあるある」って感じです。田中千絵の場合とは違うでしょ。

舞台は台中だが、外国人監督ならではのロケ地へのこだわりみたいなものがあるのかと思ったら全然なかった。郝蕾(ハオ・レイ)が出ていたのに気づかなかったのがショックだった。パンダグッズが2ヵ所くらい出てきた。周渝民には特に興味はないが、彼の歌声はわりと好きだと思った。