実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『花嫁(新娘)』(章明)[C2009-51]

ポレポレ東中野で開催されている中国インディペンデント映画祭2011(公式)で、章明(チャン・ミン/ジャン・ミン*)監督の『花嫁』を観る。インディペンデント映画祭としては破格のビッグネーム。しかも『消えゆく恋の歌』[C2011-12]につづき、年に2本の章明なんてなんという贅沢。

長江のほとりの町に暮らす、劉徳華(アンディ・ラウ)と同い年(ということは2009年だと48歳くらいか)のイケてない仲良しオヤジ4人組のお話(48歳でオヤジとは呼びたくないが、オヤジとしかいいようのない見た目なのでしかたがない)。ひとりめのチー(綦?)さんは、数年前に妻を殺され、犯人は捕まっていない。中国茶を飲ませる喫茶店を経営している。ふたりめは、大学だか何かの講座だかで、「中国がナンバーワン」とかいい加減なことを教えている男。妻は警官と浮気していて、現場をおさえようと友人の協力を得てストーカー中。三人めは保険会社に勤める男で、離婚しているが、愛人らしきものはいる。別居している娘に執着しているが、元妻には疎まれている。四人めは、離婚か何かで妻子を失った、借家暮らしの男。4人は泳ぎに行こうと毎日のように待ち合わせをするが、この男がいつも膨らまし済の浮き輪をもってくるのが可笑しい(そして水泳はいっこうに実現しない)。

映画は、チーさんの嫁探しと新婚生活を描くが、これはただの嫁探しではない。保険男が「殺された奥さんに保険をかけていたらこーんなに貰えたのにねえ」と言うものだから、なんだか損したような気分になって、恐ろしいことを計画しているらしい。毎日のように集まっては計画を練り、山村へ嫁探しに行ったり、店員募集という名目で若い女の子を募ったりしているうちに、チーさんは20歳の娘をゲットする。しかし彼女も、こんなオヤジと恋に落ちるわけもなく、だからといって強姦されたわけでもなく、結婚するのは彼女なりに目的があるからだ。

4人がかもしだすとぼけた味わいと、どこか夢を見ているような、現実感を欠いた保険金目的殺人計画。20歳の娘がイケてないオヤジとくっついたら、ふつうは女の子のほうに魂胆があると思うはずだが、夢に浮かされているオヤジはそこに気がつかない。チーさんはアノほうのお薬を飲んでがんばり、「いいもんだぞ、若いのさ」とかなんとか言いだす。それに対して、「楽しんでもらっては困る」と言う3人。チーさんがいちばんリスクが大きいのだから、少しくらい楽しんだっていいではないか。

結局、4人が現実の重みに気づいたとき、計画は皮肉な結末を迎える。喜劇のようで悲劇。あるいは悲劇のようで喜劇。そんな独特の味わいが魅力。いっぽう、章明の映画にいつもあるような、不穏な空気みたいなものはあまり感じられない。水上のシーンもあるが、水の不吉さみたいなものもあまり感じられない気がする。

舞台は、『沈む街』[C1996-49]、『週末の出来事』[C2001-01]と同様、監督の故郷である重慶市巫山縣。しかし、この映画に出てくる巫山の町は、全二作と同じではなく、三峡ダム建設に伴って新しく作られた町。どこにでもあるような味気ない町に変わっていて残念だ。

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上映前に、今回の映画祭ゲストの章明監督、楊瑾(ヤン・ジン*)監督、趙大勇(チャオ・ダーヨン/ジャオ・ダーヨン*)監督、郝傑(ハオ・ジエ*)監督、顧桃(グー・タオ*)監督、王宏偉(ワン・ホンウェイ*)の紹介があった。上映後には章明監督を迎えてのQ&A。今まで彼をただのおっさんだと思っていたが、今日はおしゃれで観直しました。始まる前にポレポレ坐のテラス席に座っていたときも、なかなかの大物感を漂わせていた。