朝から出京して新宿へ。新宿バルト9で、トム・フォード監督の『シングルマン』(公式)を観る。コリン・ファースさまがゲイを演じる映画なのに、去年の東京国際映画祭(WORLD CINEMA)、今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭と見逃していて、ロードショーでやっと観ることができた。
映画は、恋人を事故で亡くした失意の大学教授ジョージ(コリン・ファース)が、自殺を決意した最後の一日を描いたもので、最後に皮肉な結末が訪れる。原作はクリストファー・イシャーウッドの小説(読んでいない)。
恋人を亡くしたジョージの喪失感が、彼のたたずまいや彼を取り巻くしんとした空気から、否応なしに感じられるのが印象的。この印象的な空気感を作り出している、この映画の魅力を挙げると、主演俳優、時代の雰囲気、音楽の三つである。
まず主演俳優は、いうまでもなくコリン・ファースさまである。ルックスも演技も完璧。わたしはかつて、『秘密のかけら』[C2005-30]の感想(id:xiaogang:20060204#p1)に、「特に美男でもなく渋くもない、ただの中年男」などと書いてしまいました。土下座をして謝ります。ごめんなさい。昔ほどではないにしろ、今でもじゅうぶん魅力的ないい男です。「コリン・ファースだってもうとうに四十越してるんだぜ。」「ここんとこまた違った色気が出てきたじゃないか。」「出てきたよ、どことなくねえ。」「おまえ、あれ感じないようじゃ、よっぽど鈍いぞ。」……感じました、感じましたとも。
次に時代の雰囲気。映画の舞台は1962年11月30日のロサンゼルスで、キューバ危機直後の不安気な空気や、ゲイに対する差別的な空気が感じられる。同時に、ジョージや彼を取り巻く雰囲気は、これがアメリカ西海岸かと驚くほど、洗練されていてシックである。ジョージはイギリス人であり、デザイナーが作った映画であるにしても。
最後に音楽は、アベル・コルゼニオフスキーと梅林茂がクレジットされているが、特に印象的なのは明らかに梅林茂によると思われる曲。ぜったい「『花様年華』(あるいは『夢二』)みたいなのをお願いします」って頼まれたに違いない。センチメンタルだけど過剰ではない、美しい音楽である。