実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『小蛾の行方(血蝉)』(彭韜)[C2007-50]

新宿で買い物をしてから東中野へ移動。今日もポレポレ東中野(公式)の中国インディペンデント映画祭2009(公式)。一本めは、彭韜(ポン・タオ)監督の『小蛾の行方』。

ある夫婦が足が不自由な女の子を買ってきて、物乞いの商売を始めるが、その子(小蛾)が別の物乞いの少年と一緒に逃げ出す、というところまではチラシなどで見て知っていたが、すごかったのはそのあと。人身売買に臓器目当ての誘拐もどきと、中国社会の闇を描いているように見えながら、最後は、家族とか親子とかの関係について考えさせる普遍的なテーマにたどり着く。

物乞いの夫婦と小蛾を引き取ろうとする女性の三人は、善と悪の間を激しく移動する。妻は小蛾に物乞いをさせながらも、彼女をひとりの人間、家族とみなして心配し、世話をしようとする。小蛾のことは商品としか見ていなかった夫も、妻の臓器が狙われていると知ると、なりふりかまわず妻を探しだそうとする。一方、小蛾を引き取って育てようとする女性は、小蛾を死んだ子供の身代わりとしか見ていない。足が治らないと知った途端、いろいろ計算して小蛾を捨てる彼女は、物乞いの損得勘定をしているのと結局変わらない。

複数の人物がいっしょに行動し、その組み合わせが変化することで物語が展開していき、最後にすべての登場人物がひとりになって終わるのがおもしろかった。ちょっと残念だったのは、各グループが移動している距離や現在位置の関係がわからず、追っ手から逃れているのかどうかとか、正しい方向を探しているのかとかがわからなかったこと。

上映後に一条さゆりさんのトークショーがあり、広州の物乞い事情などについて語ってくれた。身体的な障害などがひどい人よりも、お金がなくて学業が続けられないといった物乞いのほうが儲かっているということである。中国で物乞いは決して珍しくはないはずなのに、小蛾のまわりにかなり人が集まっているのが不思議だったが、見た目がふつうの女の子で、お金が集まればなんとかなるかもしれない程度の悲惨さが、お金をあげる気にさせるのかもしれない。また、小蛾の諦念の表情が印象的で、人目を惹くというのもあるだろう。小蛾を演じた趙會會は、得がたい存在感を示している。