実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『生きていく日々(天水圍的日與夜)』(許鞍華)[C2007-46]

今日も映画祭は午後からなので、コバカバで昼ごはんを食べて六本木へ。今日はアジアの風の許鞍華(アン・ホイ)デー。一本めは、去年チケットが取れず、今年も紆余曲折の末やっと観られることになった『生きていく日々』。

元朗の北西、大陸からもほど近い、天水圍の公屋を舞台に、母子家庭の母子と一人暮らしのおばあさんの日常を淡々と描いた映画。三人が徐々に疑似的な家族のようになっていく、許鞍華版『家族の肖像』ともいえる。

夫が早くに亡くなり、スーパーで働いて一人息子を育てている母、貴姐(鮑起靜/パウ・ヘイチン)。進学できるかどうかが決まる試験が終わり、結果待ちの夏休みでブラブラしている高校生の息子、張家安(梁進龍/リョン・チョンルン)。貴姐と同じスーパーで働きはじめる一人暮らしのおばあさん(陳麗雲/チャン・ライワン)。この三人の日常が、ひたすら淡々と描かれており、ちょっと非日常な出来事はいくつかあるが、彼らの生活や人生を変えるような事件は起こらない。こころ温まる物語であるが、こころ温まるような特別な出来事があるわけでもない。でも日常の繰り返しのなかに、人生の機微がある。

最初はそうは見えないが、貴姐と家安はかなり理想的な親子である。口数も多くないし、あまり愛情を表に表さず、ぜんぜんベタベタしていないが、実は互いに思いやり、理解しあっている。家安がキリスト教がらみの課外学習に参加し(わたしだったら死んでも参加したくない類の行事である)、親から注意されたときどう答えるかをグループのみんなが答えるシーンがある。メンバーのなかに、親から注意されるようなことはしないといういい子ちゃんがいて、彼女と家安の対比がおもしろかった。この女の子みたいな子供をもったら親はうれしいのかもしれないが、わたしは思わず「おまえ、死ねよ」と思った。

日常生活がていねいに描かれていて、そのディテールを味わうのが楽しい。貴姐は毎日スーパーから帰って晩ごはんを作るが、おかずは必ず二品だ。上述の課外学習で、グループのリーダーが「おかあさんは、外でも働いて、帰ってごはんも作ってたいへんね」と言うと、家安は即座に「別に」と答える。貴姐はごくあたりまえのように毎日それをこなしていて、おそらく家安には、それがたいへんなようにはぜんぜん見えていないんだろうなと思った。

一方、おばあさんのほうは、昼も夜もおかずは一品で、しかも同じメニューだ。それでも作り置きはしないで、昼は昼、夜は夜でちゃんと作る。中国人だなあと思う。わたしだったらぜったい昼にまとめて作る。

貴姐の担当がドリアン売り場だというのがまたツボである。スーパーでドリアンをパッキングしているシーンもあるし、家でドリアンを割って食べるシーンもあってワクワクした。

この時間は、『生きていく日々』、『青い館』、『台北24時』と観たい映画が3本重なっていた。『生きていく日々』を選んだことに悔いはないが、ほかのも観たかった。ちなみに、英語タイトルをカタカナ化した邦題は嫌いだが、『青い館』については『ブルー・マンション』のほうがよかったと思う。『台北24時』は、小学生並みにアタマが悪い邦題ではずかしい。