実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『レッドクリフ Part II - 未来への最終決戦(赤壁 決戰天下)』(呉宇森)[C2009-02]

朝から出京して渋谷へ。渋東シネタワーで呉宇森(ジョン・ウー)監督の『レッドクリフ Part II - 未来への最終決戦』(公式)を観る。いまどき指定席ではない渋東シネタワーは憂鬱だが、同じ日に観る映画がいつも渋谷なので、最近しょっちゅう行っている。すごく混んでいるのかと思ったらすいていた。

Part Iで懲りたので、映像には期待しない、CGなんか気にしないという姿勢で観たら、けっこう楽しく観られた。この映画は、ウェザーマップ(公式)の陰謀で作られたに違いない。

呉宇森の映画は「動」ばかりで「静」がないと思っていたが、今回は「動」の部分はその他大勢の人が担い、主要な人物はかなり「静」の場面が多かった。そこで、ひとつのわかりやすい「顔」でイメージを表現できた人物が、うまく印象に残っているように思う。成功しているのは、孔明金城武曹操=張豐毅(チャン・フォンイー)、孫權=張震(チャン・チェン)、甘興中村獅童劉備=尤勇(ヨウ・ヨン)(高橋英樹にしか見えん)。小喬林志玲(リン・チーリン)も、いけすかない女だがイメージは一貫している。

Part Iでは大胆なキャスティングだと思った金城武だが、今回その認識が変わった。あの夢見るようなキラキラおめめは、口数が多いとバカに見えるが、寡黙かつ言うことに知識の香りがついていると、なぜか哲学的香りをまとってしまうのである。

一方、失敗しているのは、周瑜梁朝偉(トニー・レオン)と趙雲=胡軍(フー・ジュン)。そもそもこの二人は、この映画のなかでのイメージがいまひとつはっきりしていないように思われる。梁朝偉も胡軍も、そういった複雑で曖昧な人物に向いているけれど、この映画の単純な構造には合っていない。正直言って、梁朝偉はこの映画最大のミスキャストだと思う。梁朝偉というのは、個性を消して役を演じるタイプだと思うが、この映画では逆に周瑜が、繊細で曖昧な梁朝偉的人物に見えてしまっている。おそらくそれは周瑜のイメージとは違うのではないか。

映画としてまとめるうえで、人物を単純化して一定のイメージを与えるのはいい。しかし、人物間の関係は、もう少し複雑にすべきだったと思う。敵同士だけれど通い合うものがあるとか、味方同士だけれどライバルだとか、相反する感情が同居しているべきだ。それがないので、せっかくの男同士のツーショットに色気がない。最後に来て、いわゆる「呉宇森ショット」(剣でもやるのか)があったのはうれしいが、あれはただの敵同士では意味をなさないのではないか。曹操周瑜小喬をはさんでつながっているのだから、もう少し工夫できたのではと思う。いっそのことあそこは、わかりやすくこの三人で構成してもよかった。

ツーショットがいちばん多いのはたぶん梁朝偉金城武だけど、これはもうぜんぜんダメ。金城武がダメ。いちばんいいのは梁朝偉と胡軍で、最後にいっしょに戦うところは「静」ではなく「動」のツーショットだったが、さすがに面目躍如という感じだ。

ところでこれ、赤壁(日本語では「せきへき」と読むらしいけど、わたしは断固として「あかかべ」と読むぞ)の戦いというからにはそのうち赤壁に行くんだろうと思っていたら、結局ずっと対岸で戦って、赤壁には行かなかった。赤壁の戦いじゃないじゃないか。

映像には期待しなかったと書いたけれど、これを撮っている呂樂(ルー・ユエ)って、『十三の桐』[C2006-08]の監督の呂樂なんですよね? こんなの撮ってるんだ。がっかりだなあ(加山雄三の声で)。

関係ないけれど、ちょっと前に中国語クラスで‘説曹操曹操到(shuo1 Cao2 Cao1 Cao2 Cao1 dao4)’というのを習った。「噂をすれば影」という意味。