実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『不壊の白珠』(清水宏)[C1929-04]

フィルムセンターへ、「生誕100周年記念 美術監督 水谷浩作品選集」(公式)の『不壊の白珠』を観に行く。清水宏と聞いて駆けつける人がどのくらいいるかわからないが、それほど混まないのではないかと思っていた。ところが1時間前にはロビーの椅子がほぼ埋まる勢い。小ホールということもあり、結局満席だったと思う。常連の人たちも、ほとんど大ホールの日活アクションではなくこちらのほうへ来ていたようだ。

映画の主役は、八雲恵美子、高田稔、及川道子。八雲恵美子と及川道子が姉妹。こわすぎる。しかも母親が鈴木歌子。こわすぎる。本当に家族でもおかしくないと思わせる、ある共通する雰囲気。清水作品じゃなかったらちょいとごめんこうむりたいところ。

冒頭の及川道子の着替えシーンとか、窓の外がシルエットになって写っている喫茶店とか、前半は細かい見どころがいろいろあって楽しい。だけど昔のメロドラマにありがちな、後半はドロドロ、なのに道徳的でおもしろくないという展開。どこから見ても「不良モガ」である、専務の二人の姪が、「タイピストってみんな不良モガなんですってね」とか言うところは笑えたが、当時の職業婦人に対する偏見も垣間見えて興味深い。

最初の登場シーンから、「今日、水野さん(八雲恵美子)は?」とか言って下心ミエミエの専務は、車の中で八雲恵美子の肩に手を回したりしてエロおやじ全開なのに、実は誠意のあるいい人だったというのが納得できない。ちょっと行き遅れ気味のヒロインが、子持ちのヤモメ男と幸せになれるかもという展開は『結婚相談』を思い出させる。若くていい男を見つけてもいいはずなのに、こういったパターンが多く見られるのはなぜなのかが気になるところだ(『20.30.40の恋』のところ(id:xiaogang:20060121#p1)でも同じようなことを書いていますね、私は)。未婚の若い男は未亡人のためにキープされているのが映画の世界というものなのかもしれないが。

ところで、どのような映画がDVD化されているかでその国の文化程度がはかれると思うのだが、日本はかなりひどい。特にひどいのは松竹で、何がひどいかというと、清水宏作品がDVD化されていないことである。3年前のフィルメックスで清水宏特集が組まれ、それがその後海外のあちこちの映画祭でも上映されて、たいへん好評であると聞いている。松竹自身、去年の松竹110周年祭では、代表作の一部をニュープリントで上映した。ああそれなのにそれなのに♪、いまだにDVDが出ないのはどういうわけなんでしょう。