実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『水没の前に(淹没)』(李一凡、[焉β]雨)[C2004-43]

東中野へ移動。2年ぶりのポレポレ東中野で、李一凡(リ・イーファン)、[焉β]雨(イェン・ユィ)監督のドキュメンタリー、『水没の前に』を観る。ずっと観たかった映画で、やっと観ることができた。映画館は超満員で、観客をうまくさばけず、開映が大幅に遅れた。

舞台は、三峡ダムで沈むことになっている、重慶市奉節県の町。まだ観光客がたくさん来ている冒頭から、ほとんど廃墟となったラストまで、約一年間の記録である。主に出てくるのは、港の荷役労働者向けの旅館を営む向さん一家、キリスト教会のスタッフ、転居や取り壊しの指揮をする役所のスタッフなど。たしかに補償は十分ではなさそうだし、行政の対応も混乱しているが、これを政治に翻弄される気の毒な庶民というように捉えたらおもしろくない。新居の割り当てがいいか補償金がいいか損得を計算し、建材を売って儲けることを考え、言いたいことは言い、みな相当したたかで、壮絶な人間ドラマである。

徐々に変化していく町の様子も興味深い。冒頭、荷役労働者が港に着いた船から市場まで魚を運ぶ長回しのショットで、活気に溢れた町の様子が描かれていたが、最後は一面の瓦礫の中を、鉄屑を買う人たちが歩いている長回しのショットで終わる。人々は目前に迫った転居のことで頭がいっぱいで、映画は失われる町に対するノスタルジーは描かない。それでも最後まで観ると、消えゆくものへの哀惜がしっかりと感じられる。

失われつつあるものを記録するフィルムでもあり、人々の営みを生き生きと写すフィルムでもあり、様々な問題を観る者に提起するフィルムでもある。そして何より、滅法おもしろいフィルムである。143分とかなり長いが、知らなかったので、途中でかなり時間が経っていることに気づいたが、ぜんぜん気にならなかった。

ところで、この特集「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー - 山形in東京2006」(公式)には、観たい映画がたくさんある。以前から観たいのになかなか観る機会のない『鉄西区』や、九・二一集集大地震関連の台湾のドキュメンタリーなどだ。だけど上映回数も少ないし、平日や夜が多くてどれも観られそうにない。9月は期末だし、映画祭シーズン前なので、休むのも難しい。せっかくの機会なので、なるべくどれもが土日に上映されるように、あるいは同じ国のものや関連するものが同じ日に上映されるようにしてもらうことはできないだろうか。