実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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“Haider”(Vishal Bhardwaj)[C2014-73]

PVR: Koramangalaで、Vishal Bhardwaj(ヴィシャール・バールドワージ)監督の“Haider”(facebook)を観る。5日ぶり二度め(一度め→id:xiaogang:20141003#p2(感想なし))。ヒンディー語。Shahid Kapoor(シャーヒド・カプール)、Tabu(タッブー)、Shraddha Kapoor(シュラッダー・カプール)、Kay Kay Menon(ケイ・ケイ・メノン)主演。

  • ハムレット』を、1995年のカシミール紛争を舞台に翻案したもの。『ハムレット』は未読だし、カシミール紛争にも全く詳しくないため、正確に論評する資格はわたしにはないが、以下は付け焼刃の知識を仕入れて鑑賞した感想である。
  • シェイクスピアにはけっこう苦手感があったのだけれど、この映画は舞台を現代のインドに置き換えることによって成功している。少なくともわたし好みになっている。個人の感情や欲望が、宗教やイデオロギーの対立、大きな歴史のうねりと絡みあっていくところがいい。結末が改変されているのもいい。
  • 結末の改変によってラストは少し希望を見せているが、単純な悲劇よりもかえってどよーん感が押し寄せて満足。
  • ハムレット』の登場人物は、そのわかりにくさが極めて現代的だと思う。復讐とか人殺しとか裏切りとか、そんなにスパッと決断して実行できるはずがないわけで、主要な登場人物は、逡巡し、後悔し、苦悩する。舞台を現代に移すことで、そのわかりにくさにリアリティと魅力を与えている。
  • 俳優がみないいのだが、特に主人公Haider=ハムレットを演じるシャーヒド・カプール、母Ghazala=ガートルードを演じるタッブー、叔父Khurram=クローディアスを演じるケイ・ケイ・メノンがよかった。シャーヒドは近作しか観ていないので、ヘラヘラしたイメージだったのが一変。タッブーは憂いに満ちた表情が印象的で、着こなしも素敵だった(真似したいけれど、バンガロールは寒くないのでできない…)。そして悪役がいかにも悪そうではなく、人間的な厚みがあるのが重要ポイント。特別出演のイルファーン・カーン(Irrfan Khan)もさすがの存在感(でもちょっとあやしい)。
  • Arshia=オフィーリアを演じるシュラッダー・カプールは、すごくかわいくて無垢な感じがよく出ていたけれど、ジャーナリストには見えなかったし、無垢なジャーナリストというのもちょっと変。出番が少ないせいもあり、単にわかりにくいという域をいまひとつ出ていない。シャーヒドとタッブーの母子関係が濃密すぎるので、ラブシーンに1曲割いてもちょっと負けてる感。
  • 俳優と同様にすばらしいのが映像。白い雪に、黒、茶、紺といったダークな色彩の風景。そこに、女性たちのまとう衣装やインテリアに使われている、カシミールの鮮やかなファブリックが映える(今までカシミールの布は派手でかわいらしすぎると思っていたけれど、こうなったら何かほしい←単純)。ファブリックだけでなく、血、炎、マフラーの赤も印象的(ああいう赤いマフラーは持っている)。
  • 歌と踊りは少なめだが、ほとんど唯一のダンスシーンが見せ場にぴったりとはまっている。登場人物がときおり歌を口ずさむのもいい。
  • 劇中に出てくるサルマーン・カーンの映画は、“Hum Aapke Hain Koun”らしい。
  • ハムレット』の映画化作品は一本も観たことがないと思っていたが、『炎の城』がそうだった。加藤泰なのに、すごくつまらなかった映画(感想→id:xiaogang:20110604#p3)。