実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『緑の光線(Comédies et Proverbs: Le Rayon Vert)』(Eric Rohmer)[C1986-14]

エリック・ロメールが亡くなって約2ヵ月後の3月6日から、ユーロスペース(公式)で追悼特集上映「アデュー・ロメール」が始まっている。しかも長篇全作品。ユーロスペース、仕事が速い。速すぎる。

あらためてわたしのロメール観賞履歴を確認してみると、『満月の夜』から『グレースと公爵』までを新作として公開時に観ており、その間に公開された旧作も公開時に観ていて、『海辺のポーリーヌ』のみあとになって観ている。『コレクションする女』、『聖杯伝説』(この二作は公開されたのだろうか?)と、最後の二作『三重スパイ』、『我が至上の愛アストレとセラドン〜』は観ていない。また、『海辺のポーリーヌ』と、観たなかで最新の二作(『恋の秋』と『グレースと公爵』)を除いて、すべてシネ・ヴィヴァン・六本木で観ていることがわかった。まさしくロメールはわたしにとって、今はなきシネ・ヴィヴァン・六本木(かなり通った、好きな映画館でした)の想い出とともにある映画作家なのである。

ほとんど観ているにもかかわらず、2回観た作品がなく、ヴィデオ等でも『海辺のポーリーヌ』しか観ていない気がするので、この機会にいくつか観直してみることにした。まず今日は、ちょうどJ先生も観ていないというので、『緑の光線』と『友だちの恋人』を観る予定。遅めに出京し、例によってセガフレードで昼ごはんを食べてからユーロスペースへ。ちなみにこの劇場は、発券業務の高速化をはかるべきだと思います。

緑の光線』は、日付入りで綴られる、「ああ言えばこう言う女」デルフィーヌ(マリー・リヴィエール)のヴァカンス顛末記。拾ったトランプだの名前の偶然の一致だのに導かれながら、彼女はパリとリゾート地とを行ったり来たりする。映画は、ジュール・ヴェルヌの小説に描かれているという緑の光線を、デルフィーヌと観客がともに目撃する美しいシーンで感動的に終わる。しかし、別に感動的な映画というわけではなくて、デルフィーヌの「ああ言えばこう言う」度合いのすごさを楽しむ映画である。

デルフィーヌに向かって「死ね、おまえ」と百遍くらいつぶやきつつも、その言い分を聞くのがだんだん楽しくなる。あまり共通の話題がない人たちといっしょに過ごすたいへんさも、共感できるところがある。そこで適当に聞き流さずに、いちいち反論するパワーに圧倒される。つまらない男がひとりでしゃべりまくっているときは、不機嫌きわまりない顔で黙っていたりもするが、「オンリ〜ユ〜♪」のオヤジギャグには笑ってほしかった(わたしが笑っちゃったので…)。

ことあるごとにメソメソ泣くのも勘弁してほしいけれど、ヴァカンスの計画が思うようにいかないというだけで大のオトナが泣くというのも、フランス人にとってヴァカンスがいかに特別かを表しているといえよう。

デルフィーヌが最初に友だちの実家へ行くのはシェルブール(Cherbourg)、次の山はよくわからないが、別荘を借りるのはビアリッツ(Biarritz)、緑の光線を見るのはサン=ジャン=ド=リュズ(Saint-Jean-de-Luz)。