実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ロルナの祈り(Le Silence de Lorna)』(Jean-Pierre et Luc Dardenne)[C2008-19]

恵比寿に移動して、恵比寿ガーデンシネマジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの新作、『ロルナの祈り』を観る。今日は映画の日だそうで、1000円で観られるのに前売り券をもっていたから損した気分。

映画は、ベルギー社会の周縁に生きる(それはいつもだ)、鍵と着替えと目標に規定された人生を生きる人々のお話。

ベルギー国籍を得るため、ヤク中のクローディ(ジェレミー・レニエ)と偽装結婚しているロルナ(アルタ・ドブロシ)。真剣にヤクをやめようとしているクローディを助けたいという思い、自分を頼ってくるクローディの力になりたいという思い、そして偽装結婚程度ならいいが、殺人などには関与したくないという思い。そういったものが互いに混じりあいながら、ある感情が生まれ、育っていくさまを、じっくりとかつ淡々と描いていく。ダルデンヌ兄弟の映画としてはかつてないほど、ヒロインに感情移入させ、ロルナとともに観客をもとりあえず安心させておき、突然奈落の底に突き落とす。わたしは決定的瞬間を描かない映画が好きだけど、ここまでスパッと潔く描かずに、何が起こったかをあいかわらず淡々と、ロルナの行動だけで見せていくさまは見事である。

これまでのダルデンヌ兄弟の映画が、ある感情の芽生えみたいなものを一本の映画を通して描いてきたとすれば、この映画はさらにその先を描いている。はじめての音楽にも心を動かされた。わたしは母性とかが苦手なので、後半の展開に必ずしも賛同はできないけれども、ダルデンヌ兄弟がこれからどこへ行くのか、とても楽しみである。

ダルデンヌ兄弟の映画のなかでは『ロゼッタ[C1999-19]がいちばん好きだが、この映画も『ロゼッタ』みたいにわくわくさせるのは、やはり主人公がパワフルな女の子だからだろう。ロルナはいつもつかつか歩いていて、彼女の目的はどんどん変わっていくのだけれど、いつもその目的に向かって猪突猛進である。突如として突飛な行動に出ることも一度や二度ではなく、とにかくその行動力というか、常に動いているところが小気味いい。

わたしもパワフルにならなければと思い、とんきにひれかつを食べに行く。