実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『昨日の戦地から - 米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア』(ドナルド・キーン・編)[B1178]

東京国際映画祭第七日も朝から六本木へ。道中、『昨日の戦地から - 米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア』読了。

昨日の戦地から―米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア

昨日の戦地から―米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア

日本語の訓練を受けた9名のアメリカの情報将校が、1945年8月から1946年3月にかけて、アジア各地から出した40通の手紙を収めたもの。手紙が書かれた場所は、東京、京都、大阪、広島、佐世保、沖縄、青島、北京、上海、ソウル、クワジェリン、グアム、ホノルル。それぞれの地で体験したこと、見聞きしたこと、それについて感じたことが、詳細に書かれている。

この本を買ったのは、終戦直後の青島、北京、上海などの様子を知りたいということが主な目的だったが、それは書かれてはいるもののそれほど多くはない。主要な内容は、捕虜やその家族、財閥、皇族などの日本人と何を語り合い、それについてどう考えたかということだ。そこには、戦争について、戦犯について、占領政策について、民主主義についての様々な意見がある。悲観的なものもあれば楽観的なものもある。賛同できるものもあればできないものもある。絶望があり、苦痛があり、理想があり、希望がある。天皇の処遇も戦犯の処理もまだはっきりとは決まっていない渾沌とした時期に書かれた、生々しい貴重な記録である。

もちろん、彼らが偶然出会ったものであったり、彼らの視点で取捨選択された情報であったりはする。しかしなにより、一次情報に近いナマの情報であること、占領軍の方針などとは別に、それぞれが自分自身の考えを自分の言葉で語ったものである点が興味深い。たとえば「憲法は押しつけられたものだ」といった観念的な考えに凝り固まっている人は、こういうものを読んで、終戦直後のリアルな雰囲気を感じてみるといいのではないだろうか。