実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『八月的故事』(麥婉欣)[C2006-13]

東京国際映画祭第六日も朝から六本木へ。今日と明日は、六本木→渋谷→六本木の移動をしなければならないのでたいへんだ。セガフレードで昼ごはんにパニーニなどを食べたあと、今日の一本目、映画祭十三本目は、アジアの風の『八月的故事』。『胡蝶』[C2004-11]の麥婉欣(ヤンヤン・マク)監督の新作である。

TV用の短篇を編集し直したものだという62分の中篇で、大学予科への進級を控えた少女・玉意(田原)が、夏休みに伯父の仕立屋でアルバイトをするという話。仕立屋で働く平安(藤岡竜雄)への淡い恋、玉意、平安、玉意の同級生・惠芳(張詠恩)の三角関係もどきが描かれている。平安の気持ちがわかりにくいのだが、心の中で誰を好きであるにせよ、やがて大学へ進学するであろう少女たちと、大陸から働きに来ている学歴のない自分との間の壁を意識し、越えてはならないと自分を律しているようなところがあって興味深い。

まず、田原(ティエン・ユアン)がラジオに合わせて王菲(フェイ・ウォン)の“紅豆”を口ずさみながらアイロンかけをしている、長回しのオープニングに魅せられる。古い仕立屋の店内のたたずまいや、香港の古いアパートの、独特のタイルの床や波形の格子などが、いい感じに撮られているのも印象に残る。ヴィデオのせいか、蒸し暑さがあまり感じられないのは残念だが、真夏の気配も出ていたと思う。香港らしい屋内のディテイルを、真夏の空気とともにフィルム(ヴィデオだが)に定着させた愛すべき小品という感じである。

ただし、台詞のない短いショットを、時間順序を逆転させたり、過去のショットを挿入したりしてつなぎ合わせた編集には必然性が感じられず、音楽は明らかに入れすぎで、MVのような印象を抱かせる点はマイナスである。また、制服が中心の話というわけではなかったはずが、終盤に突然、制服という視点での玉意の長いまとめモノローグが入ったり、最後に後日談のシーンがあったりする点も違和感がある。

主演の田原は、『青春期』(id:xiaogang:20061022#p2)やナマで見るのに比べて、顔つきもスタイルも、ちょっとごつごつした感じがした。『胡蝶』でもそうだったが、監督の好みでそういうふうに見せているのだろうか。若い役だし、三人の関係も特別進展しないせいか、官能的なくちびるも強調されていなかった。

上映後、麥婉欣監督、主演の田原、藤岡竜雄などをゲストにティーチインが行われた。田原はパンダのぬいぐるみをもって登場。英語を介しての通訳だったので疲れた。残念ながら、渋谷へ移動するため、あともうちょっとというところまでしかいられなかった(結果的には余裕があったので、最後までいても大丈夫だったようだが)。

“紅豆”が入っている王菲の“唱遊”は、処分してしまったみたいで残念ながら手元にはないようだ(EMI移籍後の王菲には興味をなくしたので)。代わりに蔡健雅(ターニャ・チュア)が歌っているのがあるので、それを聴いてよしとしよう。