実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『細い目』

バスで渋谷へ移動。かなり時間があったのでだいじょうぶだと思っていたら、雨のせいもあってか渋滞。なんとか間に合った(トイレに行く時間もなくて死ぬかと思ったが、意外とだいじょうぶなものですね)2本目はYasmin Ahmad(ヤスミン・アフマド)監督の『細い目』。金城武ファンのマレー人少女が屋台にVCDを買いに行って、『恋する惑星』と『報告班長3』のうち、あろうことか『報告班長3』を買ってしまうため、見かねた華人少年が『恋する惑星』を渡してふたりの恋が始まる、というストーリー(ちょっと脚色あり)。簡単にいえば、多民族版『ビューティフル・デイズ』。

マレーシアは多民族国家である。しかしマレー映画では世の中にマレー人しかおらず、華人映画では華人しかいない。そんな中でのこの映画の登場は非常に興味深い。主人公の少年、阿龍は父方が広東系でふだん広東語を話しているが、母親はプラナカンで言語もプラナカン語、阿龍の友人は福建系というように、華人の中での多言語状況もちゃんと描写されている。さらに阿龍の兄嫁はシンガポール人で、同じ華人でもシンガポール人とマレーシア人の間にある溝みたいなものも少し描かれている。

しかし、民族の違いが障害になるはずが、気づいてみれば、何不自由ない中流家庭の少女と、ヤクザとつながりのあるチンピラまがいの少年という環境の違いが障害になるという、問題のすり替えが起こっている。なんだかおかしい。だいたい、華人だからといってヤクザだの銃撃だのが出てくるのはステレオタイプではないのか。おそらく監督は香港映画フリークなので、単にノワール映画っぽいことをやってみたかっただけなのかもしれないけれど(きっとそうなんだろう)。一般的に言って華人のほうが豊かだが、マレー人家庭のほうがお金持ちでまっとうに描かれているのも、多数派のマレー人に配慮したためかと思ったりする。

舞台はイポー。以前一泊二日で訪問したときは、競馬にうつつをぬかしていたため、十分な街歩きができなかった。クアラ・ルンプルほどの都会でもなく、ペナンやマラッカほど美しくもないが、それだけに逆にこころ惹かれるところがある。この映画のDVDを買って、いつかイポーを再訪したい。