実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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“Bangalore Days”(Anjali Menon)[C2014-43]

PVR: Koramangalaで、Anjali Menon(アンジャリ・メーノーン)監督の“Bangalore Days”(facebook)を観る。マラヤーラム語(英語字幕あり)。Dulquer Salmaan(ドゥルカル・サルマーン)、Nazriya Nazim(ナスリヤ・ナシーム)、Nivin Pauly(ニヴィン・ポーリ)、Fahadh Faasil(ファハド・ファーシル)主演。

  • マラヤーラム映画界一のイケメン(Dulquer Salmaan)と、マラヤーラム映画界一の美女(Nazriya Nazim)、その他主要若手スター総出演の、ちょっと年齢高め青春映画。マラヤーラム映画はギャラが低いからそのぶん数出て稼ぐという話があったけれど、彼らもほんとうによく出ている。
  • いとこ同士で仲良く育ったDulquer Salmaan、Nazriya Nazim、Nivin Paulyの三人が、就職やら結婚やらでケララの田舎からバンガロールに出てきて、挫折を味わいながら成長するというお話。あらすじを書くとかなりポジティブなお話になってしまうのだけれど、精神的な前向きさは描かれず、行動が淡々と描かれるので、ごく自然に共感できる。シリアスな部分も多いけれど、全体としてはさわやかで楽しい映画。
  • ただ、主役の三人が、ルックスも才能も経済的にもゴージャスすぎてリアリティがない。もう少しふつうの、大学を卒業して都会に出てくる若者にとって等身大な設定のほうがいいのにと思った。ボリウッド映画は観客に現実を忘れさせて夢を見させることが重要らしいけれど、マラヤーラムのニューウェーヴ映画でもそうなのだろうか。10代くらいの子が観たら夢を与えられるかもしれないけれど、大人の場合は自分の現実を否応なしに想起させられてげんなりしませんか?(新婚なのにえらくきれいでゴージャスなナスナスのアパートを見るたび、うちのアパートを思い出してげんなり)。デリーやムンバイなら映画だからと見過ごすこともできるが、バンガロールとなるとどこか気になるしうらやましいし、胸ぐらをつかんで「なんでこんなところに住めるんだ?」と問い詰めたくなった。Nivin Paulyもけっこうよさげなところに住んでいたし。
  • 主演の三人にそれぞれ夫や彼女ができる話で、ひとつのベッドの上で一夜を過ごしても、会うたびに派手にハグしても、毎夜夜遊びしても、三人のあいだには男女の意識は全くない。幼なじみが大人になってドロドロするという話をこの三人でやってもおもしろそうだが、この映画の場合は中途半端にそういうのを取り入れなかったのがよかったかもしれない。無邪気に友情が成立しているところがなかなか微笑ましくてよかった。
  • ナスナスの夫役のFahadh Faasilは、結婚して最初のほうが“North 24 Kaatham”の雰囲気ほとんどそのままだったのでおかしかった(のちに変貌するけれど)。終盤には健さんに変身するシーンがあるが、それを見たナスナスの反応は物足りなかった。江波杏子藤純子を観て勉強してほしいです(そんな反応されたらそこから別の映画になっちゃいますが)。
  • ドゥルカルくんの相手役のParvathi(パールヴァティ)は、“Maryan”(id:xiaogang:20130727#p3)のヒロインだったんですね。雰囲気がぜんぜん違うので、全く気づかなかった。
  • この映画で描かれるバンガロールは、とても近代的で美しくて自然もあって、欧米の都市のようなきれいなところである。その雰囲気は、実際にバンガロールに住んでいる実感とはかなり異なる(ナスナス自転車に乗ってたけど、溝に落ちるよ)。だけどおそらく、ケララの人から見たバンガロールは、きれいで近代的な国レベルの都会で(ケララには州レベルの都会しかない)、でも近くて身近でデリーやムンバイみたいに怖くない、というイメージなのだろう。そもそもバンガロールにはごちゃごちゃしたアジア的魅力もないし、バンガロールや都会を否定する映画でもないので、あのように描くしかなかったのだろうと思う。
  • バンガロールのロケ地は、特にどこかが印象的に使われているということはなかった。Phoenix Market CityのPVR CinemasやMainland Chinaが少しだけ舞台として出てきて、State Central Libraryなど、知っているところがいろいろ細切れに映った。あとカフェとか湖とかラジオ局とかいろいろ出てくるけれど、またDVDが出てからちゃんとチェックして訪問したい。
  • ベランダに出て窓を閉めるとロックされてしまうのはうちも同じで、最初のころはケータイをもって洗濯物を干していたけれど、最近は閉めないくせがついたのでやめた。でも万一閉め出されてしまったら、家族の電話番号も憶えていないし、大家さんの電話番号はそもそも知らないし、どうしたらいいんだろうと時々思っていたけれど、ドライバーで解決できるらしいことがわかってひと安心である(といってもどうやればいいのかわからないけれど)。
  • マラヤーラム映画はインド映画のなかでは異色で、お金はかかっていないが、ちょっとニューウェーヴっぽかったりアートっぽかったりする映画が多い。つまりわたしが今まで観ていた映画にたぶんいちばん近い。そういうのはヒンディー映画にもあるけれど、ヒンディーの場合、ノースターで、なかなか上映されず、あまり客が入らず、すぐ終わる。しかしマラヤーラムでは、そういうのがスターを使って作られ、客が入ってけっこうヒットする。なかなか興味深い。インドに来る前は観なかったような、ボリウッドの大作映画やテルグ映画みたいなのばっかりだと疲れるので、インドにマラヤーラム語映画があって、そしてそれが上映される州に住んでいて、ほんとうによかったと思う。