実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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“Queen”(Vikas Bahl)[C2014-18]

PVR: Koramangalaで、Vikas Bahl(ヴィカース・バール)監督の“Queen”(facebook)を観る。ヒンディー語。Kangana Ranaut(カンガナー・ラーナーウト)主演。

  • 結婚式直前に結婚をキャンセルされたRani(Kangana Ranaut)という女性が、ひとりで新婚旅行に行くという、パリ、アムステルダムロケのロードムービー。大切に守られて育てられた世間知らずの女の子が、初めての海外ひとり旅でいろんな人と出会っていろんな体験をする、というお話。強盗に遭いそうになるシーンはあるけれど、出会う人はみんないい人だし、panipuri(かな?)の屋台を出したら大人気になったりとか、多分におとぎ話的ではあるけれど、ヒロインがほんとに嫌味がなくて後味がさわやか。彼女は旅先で出会う人たちに助けられるけれど、最後は彼らに見送られるのではなく、彼らを見送ってひとりになる。そのことで彼女の成長がさりげなく描かれているのもいい。
  • Raniというのはqueenという意味の名前で、タイトルもそこから来ているが、受動的に生きてきた女の子が自分の人生の主役になる、といった意味が感じられる。
  • 少し引っかかるのは、そもそも保守的な家族がRaniの自立を妨げる根源であったはずなのに、家族は彼女が乗り越えるべき存在としては描かれていないことだ。彼女は自分の足で歩き始めるために、自分自身の中でいろいろなものを受け入れたり乗り越えたりするだけでよく、家族はいつのまにか物分かりのいい存在になっていて、彼女を暖かく見守って無条件に受け入れてくれているようにみえる。それはちょっと都合がよすぎないだろうか。
  • カンガナー・ラーナーウトは、今まで大人っぽい、妖艶なイメージだったが、今回は女性というより「女の子」といったほうがふさわしい、かわいらしい役を自然体で演じていて、驚いたけれどこれはこれでなかなかよかった。ヒロインが遭遇する出来事自体にはそれほど新鮮味がないのに、すごくフレッシュな印象を受けるのは、かなりの部分彼女の好演によるものだと思う。
  • Raniがフランス語で話しかけられて全く理解できないとか、ヒンディー語でひとりでしゃべりまくって相手は理解できないとかといったシーンが、ヒンディー語を理解できないまま観ているわたしの境遇と妙にシンクロして、もどかしさみたいな気分を共有しているような臨場感があった。
  • セリフですごくウケているところがけっこうあり、言葉がわかるともっと楽しめると思ったけれど、セリフのないシーンでの観客の反応を見るかぎり、ニヤリという程度のところでもめちゃウケしていた。大笑いしているからといってそんなにおもしろいわけではないと思われる(香港人とか大阪人と同類ですね)。
  • Raniがイタリア料理を食べて味がうすいみたいなことを言うシーンで、シェフが「インド人は何でもマサラ味じゃないか」と言うのが、インドに暮らす外国人の気持ちを代弁しているようでおもしろかった。さすがにイタリアンはインドでもマサラ味じゃないけれど。
  • 映画の中にひとりの日本人とひとつの日本人グループが出てきて、インドにおける日本人イメージという点でちょっと引っかかった。ひとりの日本人というのはRaniがアムステルダムのドミトリーで同室になる男性Taka。演じているのが日本人ではなく(Jeffrey Hoというマレーシア華人らしい)、時々セリフの中に出てくる日本語の発音がかなりおかしいのがまず気になる。それはほとんどの人にはわからないし、この役柄自体はすごく好感のもてる人物に描かれている。ただこの男性が異様に背が低く、動きがどことなく滑稽である。そして日本語で「おい」を連発する。このあたりがインド人の日本人イメージだと思われて気になる。また彼は津波で家も家族も失くしたという設定で、まあそうなるのも無理はないし、別に問題でもないけれど、ちょっと安易な感じはする。でもきっと今後10年くらい、外国映画に出てくる何かを抱えた日本人といえば、地震津波原発事故の被害者ということになるんだろうな。
  • 日本人グループのほうは、パリのシーンに出てくる、おそろいの帽子をかぶった団体観光客で、Raniが吐いているのをめざとく見つけてみんなで写真を撮る。そのときに発せられる日本語はネイティブっぽかったので、実際の観光客をつかまえたのだろうか。ああいうのもきっと典型的な日本人イメージなのだろうが、こういうシーンがウケているのをみると暗い気持ちになる。今ではインド人がおそろいの帽子をかぶって団体旅行をしたり、ショッピングモールで記念写真を撮ったりしているのに、一度共有されたイメージは何度も再生産されてなかなか消えない。
  • パリロケのアジア映画リストにまたひとつ作品が加えられたが、期待に反してパリの外景は少ししか出てこなかった。ロケ地めぐりをしたいのはむしろアムステルダムのほうだが、おそらくアムステルダムに行くことはないと思う(侯孝賢ホン・サンスアムステルダムで映画を撮ったら行くけどね)。
  • ギャングもMacを使うインド映画だが、Raniが旅行に持って行ってたのはめずらしく東芝のノートパソコンだった。あれ、蓋に大きくTOSHIBAって書いてあってカッコ悪いよね。