実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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“Badlapur(बदलापुर)”(Sriram Raghavan)[C2015-17]

INOX: Magrath Roadで、Sriram Raghavan(シュリーラーム・ラーガヴァン)監督の“बदलाpur”を観る。ヒンディー語。Varun Dhawan(ヴァルン・ダワン)、Nawazuddin Siddiqui(ナワーズッディーン・シッディーキー)主演。

  • フィックスの長回しというのはわたしの大好物だが、インド映画では滅多に観ることができない。ところがこの映画は冒頭からそれ。すでに傑作の予感。
  • 妻を殺された男の復讐劇ということで、関連はないが、自然と『悪魔を見た』〜“Ek Villain”を連想。『悪魔を見た』から“Ek Villain”への改変部分に納得できなかったわたしだが、“Badlapur”には納得。そしてこちらはもっとドラマ重視で好ましい。
  • 舞台は、Maharashtra(マハーラーシュトラ)州のPune(プネー)とBadlapur。このBadlapurのどんよりした空気感がいい。割合としてはそれほど多くないし、外景のシーンもそんなにないけれど、タイトルにもなっているように、この町が主人公のようにも感じられる。ヴァルン・ダワン演じる主人公は、偶然この町に流れ着き、素性を隠すようにして孤独に15年暮らしている。突然の暴力、こざっぱりしていていい感じだけれどどこかがらんとして喪失感を漂わせる部屋、そして雨。心に傷を抱えて都会で生きるのはそれはそれで辛いだろうが、もしも都会にいたら徐々に忘れていったかもしれない喪失感や憎しみを、このBadlapurという町が濃縮し、強化していったとしか思われない。
  • ヴァルン・ダワンがインタビューで、Igatpuriに滞在して撮影したと語っているけれど、BadlapurのシーンはIgatpuriで撮っているのだろうか。でも何度も映る駅のホームは本物のBadlapurですよね?
  • この映画の主役にヴァルン・ダワンを投入するのはちょっとリスキーだったと思う。そこで共演にナワちゃん、重要な女性の役にHuma Qureshi(フマー・クレーシー)という、地味だけれど手堅い役者をもってきていて、ふたりともすごくいい。イケメンや6パックもいいが、ナワちゃんはボリウッドではほんとに貴重な役者である。ちゃらちゃらしていていまひとつつかみどころがない感じの銀行強盗犯を演じていて、そのあたりが最後の展開に効いている。15年ぶりにシャバに出たナワちゃんが映画を観に行く長いシーンも最高。
  • そんな共演陣にも恵まれて、ほとんど笑わない、これまでのイメージと正反対の役を演じるヴァルン・ダワンはなかなかよくやっているとは思うけれど、ちょっとカタいというか、表情が少ないのが時に単調に見えてしまうし、設定よりかなり若くてやっぱり若く見えてしまうのも気になる。でも間違いなくターニングポイントとなる映画だと思う。これまで「『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』で主演デビューした三人はみんなその後も大活躍」と書いている人が多かったけれど、作品の質まで考えたら、どうみてもアーリア・バット > シッダールト・マルホートラ > ヴァルン・ダワンの順だった。でもこれでヴァルンはシッダールトくんを抜いたね。しかしこの役、シッダールトくんで観てみたかったな。
  • 捕まらなかったほうの銀行強盗犯の妻を演じたのは、マラーティー語映画“Lai Bhaari”のヒロインのRadhika Apte(ラディカー・アープテー)。テルグ語映画“Legend”では浅丘ルリ子だと思ったけれど、今回はちょっとディーピカちゃんっぽかった。
  • この監督はきっと“Gangs of Wasseypur(血の抗争)”が好きなんだと思う。キャストをはじめ、いろいろなところに影響を感じる。
  • しつこく脱獄を試みるナワちゃんが松方弘樹を髣髴させて楽しめました。