実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

“Mary Kom”(Omung Kumar)[C2014-63]

PVR: Koramangalaで、Omung Kumar(オムング・クマール)監督の“Mary Kom”(facebook)を観る。ヒンディー語Priyanka Chopra(プリヤンカー・チョープラー)主演。

  • マチュアボクシング選手Mangte Chungneijang Mary Komの半生を描いた映画。
  • 歌あり、口パク少しあり(と思ったけれど、単に何かしゃべっているというシーンなのかも)、踊りなし、踊るシーンあり。
  • ライバルとの争いとか、競技上の弱点の克服とか、新しい技の獲得とか、そういったボクシングそのものを描くシーンは全くと言っていいほどない。映画は、メアリー・コムの激しい気性とか、父親の反対とか、結婚・出産とかいった個人生活を断片的に描き、ボクシングの妨げになっているものを克服し、さらに個人生活とボクシングが互いに力を与えあっていくさまを描こうとしていると思う。そのために異なる時間の出来事や異なる場所の出来事が並行して描かれているが、結局のところ様々なエピソードの断片がうまく組み合わさっているとは言えない。肝心なところで、父親の声援や子供の生命力が奇跡のように作用してメアリーを勝たせるという展開には閉口する。それらによって家族の絆みたいなものを描いた、インド人の大好きな家族映画になっているのかも知れないが、わたしとしてはこれはない。特に終盤の展開は、事実なのかフィクションなのかという論争も起きているようで、もし事実だったらしかたがないけれども、それまで比較的淡々としていたのに最後にこれでもかと盛り上げる点も含め、わたしはかなり白けた。
  • 必然的にインドという国を背負っていたミルカー・シンとは違い、メアリー・コムにはそういうものはないと思われる。スポーツナショナリズム嫌いのわたしとしては、その点安心して観ていたのに、最後の最後に国歌が流れるあれはないでしょう。子供の話でかなり白けているところに追い打ちをかける国歌シーン。ハラハラさせつつ感動的に盛り上げて最後に感極まらせるという狙いで、実際それにはまる人も多数いるのだろうが、わたしは一気に印象が悪くなった。
  • プリヤンカーはボクサーらしいからだを作ったりして熱演しているが、それだけではなく、全体的になかなかよかった。プリヤンカーの映画はどちらかといえば飾り物的なヒロインを演じるものしか観たことがなく、そういうものだと、ばっちりメイク、セクシーファッション、過度の露出などで派手なうえにも派手といった感じになってしまうことが多いが、地味めで多少ブスメイクをしている今回のほうが、本来の美しさ、かわいさがいい感じに出ていた。結婚生活のシーンなど家もファッションもかわいくて、実際はあんなじゃないだろうと思いつつ楽しめたし、セクシーファッションより体操着のほうが、スタイルがよくてかっこいいなあと思えたりする。
  • しかしながら、女子高生シーンのなんちゃって度はかなりすごかった。なにしろデカい。大人の女性が女子高生をやっている違和感というより、男性が女子高生に扮しているみたいで、ちょっとドリフとかを見ている感じ。
  • パーで走るプリヤンカーはちょっとだけでした。
  • 妻が夫を支える話はきらいだが、夫が妻を支える話はかなり好き。Darshan Kumar(ダルシャン・クマール)演じるだんなさんはかなり献身的で、このふたりのシーンをもっと観たかった。
  • 有名な人、功績のある人の伝記映画は難しくて、傑作といえるものもあまり思い浮かばない。“Bhaag Milkha Bhaag”もそんなに大した映画だとは思わないけれど、本作を観てから考えるとやっぱりあれはなかなかうまくできている。
  • 映画の大半は、メアリー・コムの出身地であるManipur(マニプル州)が舞台。出産のときに街で紛争が起きている様子も描かれている。しかしながら、絵になる風景とか、なかなか病院にたどり着けなくてハラハラさせる状況とかいう以上には、Manipurという地理的背景や時代的、社会的な背景は物語に組み込まれていなかったように思われ(台詞で何かあったのかもしれないが)、その点も残念。
  • Manipurのシーンは、Himachal Pradesh(ヒマーチャル・プラデーシュ州)で撮られているらしい。
  • 後半弱い広島カープは、後半の巻き返し・追い込みが得意なメアリー・コムを見倣うべし。