神保町シアターの特集「監督と女優とエロスの風景」(公式)で、蔵原惟繕監督の『執炎』を観る。
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- 発売日: 2013/02/02
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彼女が異常に執着する相手が伊丹一三というのがまた、「どこがそんなに?」という感じだが、いわゆる日活俳優ではないのはそれなりに新鮮。全体に悪くないのだろうが、伊丹十三だと思って見てしまうとどうもダメだ。これよりあとの『男の顔は履歴書』[C1966-13]ではひどい演技だったのに、なぜかこれはそうでもない。
浅丘ルリ子は、予想された周囲の反対もなく伊丹一三と結婚してラブラブなのだが、戦争がふたりを引き裂く。彼女の異常な執念が最も発揮されるのは、伊丹一三が戦争で怪我をしたときで、医者が足を切断しないと命が危ないと言うのを拒んで退院できるまでに回復させ、歩くのは無理だと言うのを以前と変わらないまでにする。しかしまさにそのことが、彼女から伊丹一三を取り上げることになり、彼はふたたび徴兵されて二度と帰らない。執念で怪我は撃退できても、徴兵すなわち国家は撃退できず、その前に敗北するほかはない。
蔵原惟繕の映画は、世評の高い『硝子のジョニー 野獣のように見えて』[C1962-18]がかなりしんどかったので、これもきついかなと思っていたが、そんなことはなかった。浅丘ルリ子の強烈なキャラクターのわりに、全体としてしっとりした味わいである。モノクロ映像もきれいだし、何度も出てくる余部鉄橋の風景もいい。鉄橋はコンクリート製のものに替わってしまって現存しないらしくて残念。
伊丹一三の従妹の女医役(白衣姿はない)で芦川いづみも出ているが、かなりふつうで残念。軍人の旦那が死んだときに例のヘンな目つきをしていたし、何かありそうだったのに、もうひとつヘンタイ的なところが出ていなくてがっかり。伊丹一三の弟がダイヤモンド冬さん(平田大三郎)で、浅丘ルリ子のお父さんが信欣三だったので、いつ刺青を彫るのかとドキドキした。
ナレーションが使われているのは文芸作品としてはありがちだが、そのナレーションが赤いシリーズドラマ風というか『乳姉妹』みたいなのがいただけない。情緒的な音楽が鳴りっぱなしなのもうるさいと思ったら黛敏郎だった。