キネカ大森で、井口奈己監督の『犬猫』を観る。以前、録画で観て気に入っていたもので(id:xiaogang:20060721#p2参照)、やっとスクリーンで観ることができた。
- 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
- 発売日: 2005/05/27
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ふたりは幼なじみだが仲が悪く、それはたぶん、ヨーコの好きな男の子をいつもスズが横取りするからだと思う。それなのに、「いつも同じ男の子を好きになるから仲が悪い」とスズがしれっと言うので、「あんたが言うか」と思うんだけど、なんだか憎めない。仲が悪いといっても、いつも険悪な雰囲気だとかいがみ合っているとかいうわけではなく、かといってベタベタと仲良くするわけでもなく、ほどよい距離を保ちながら、意地悪したり思いやったりしているのが心地よい。本物の犬と猫も出てきて、いい味を出している。
フィックス×ロングショット×長回しの映像が激しくわたし好みだが、登場人物の行動を少し離れたところから見つめることで、絶妙のおかしみを醸しだしている。たとえば冒頭、スズがアイスを買って帰ってきて、同じショットで今度はスーツケースをもってふたたびアパートから出てくるところや、スズとヨーコが同じように交差点で道に迷ったり、犬と格闘したりするところ。ちなみに、古田に「アイスはいらない」と答えたスズが、次のショットでアイスを買ってくるところは『丹下左膳餘話 百萬両の壺』[C1935-07]を連想させる。このシーンでアパートの前に焼き芋屋さんがいて人が群がっているのも、アイスとの対比でおもしろい。
ロケ地選びもすばらしく、映像のスタイルとうまく組み合わさって効果をあげている。ごくふつうの住宅街だけど、石段や坂道の使い方がすばらしい。練馬区のヤマザキYショップや江古田・栄町本通り商店街、杉並区立柿木図書館などが出てくるが、石段などのロケ地はどこだろう。描かれているのは秋から冬になるあたりの季節で、街のくすんだ色彩が、少しずつ厚着になっていく登場人物の服装とともに、この季節独特の空気感を醸しだしている。半分紅葉したような木々のさりげなさも、『東京公園』[C2011-03]のようなこれ見よがしにきれいな紅葉よりもソソられる。
主な舞台になる家がまたいい。築何十年かの、あまりパッとしない小さな平屋だけど、木の枠が白く塗られたガラス戸に濡れ縁、畳にちゃぶ台。ところどころかわいいものがあるけれど、いかにもおしゃれなインテリアではなく、ちょっと雑然とした感じが醸しだす生活のにおい。冬なのにやたらと窓を開けているところも昔の映画みたいでよかった。